ヘンリー 殺す、息を吐くように

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MOVIE
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あのハンニバル・レクターの元ネタ、生涯で300人以上を殺害したと言われるシリアルキラー:ヘンリー・リー・ルーカスを描いた作品。

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あらすじ

ヘンリー・リー・ルーカスは女性を殺しながら各地を転々としていたが、母を殺して刑務所に入った際に知り合ったオーティス・トゥールのもとに身を寄せることとなる。

そんな中トゥールの妹であるベッキーが夫と別れ兄を頼って帰ってくる。

殺人と暴力と性愛、奇妙な同居生活が始まった。

殺人は呼吸と同じだった

母から父共々壮絶な肉体・性的虐待をされて育ったヘンリーは、女性に対して非常に強い拒否感を持つようになり、遂には女性のみを狙う伝説的なシリアルキラーとして米国犯罪史に刻まれている。

そんなヘンリーが現役バッキバキに殺人を繰り返していた1980年代をフィクションを織り交ぜながら描いていくのが本作なのだが、何より人の命が軽い

作品冒頭でも女性が立て続けに3人殺されるシーンが続くセンセーショナルなもので、83分の本編中に18人もの人が殺されるのだ。

のちに逮捕されたヘンリーは「殺人は息をするのと同じだった」と話すが、まさに息をするように凶行を繰り返す様子が描写される。

現実との相違

実在の人物が実名で登場する作品ではあるものの、やはり話を面白くするために設定が盛られている点が多くある。

ヘンリー

映画では母親を最初に殺して刑務所に入っていたというが、現実では窃盗で逮捕されたのが最初であり、むしろ母親以前に14歳で強姦殺人を犯している

現実では母親を殺して収監されてからも「出所したら必ず人を殺す」と言い続けるも何故か仮釈放され、実際に出所してから数分で女性を絞殺している

その後オーティスと出会いベッキーを紹介され恋に落ちた上殺害してしまうのは史実通りだが、実際に殺人罪が確定しているのは9件で、物的証拠があるのが2件でその他多くの殺人事件は彼自身の虚言癖によるものとする説もある。

1983年に再び逮捕されたヘンリー、晩年「ヘンリー・ルーカス連続殺人事件特別捜査班」の正式メンバーとして、鉄格子の中から助言を行っていた。ここからハンニバル・レクターというキャラクターが生まれたのだ。

オーティス

ヘンリー・リー・ルーカスと共に実在した人物。

本名:オーティス・エルウッド・トゥール

作中ではバイセクシャルのように描かれているが、実際は同性愛者で放火魔。ヘンリーと同じく14歳ではじめての殺人を犯す

作中ではヘンリーと共に数件の快楽殺人を犯すが、実際は1008件の殺人の共犯を自供していたというクレイジーぶり。

ベッキーが妹というのはフィクション、現実ではヘンリーに殺されることはなく獄中死している。

淡々と

劇中その殺害の瞬間は明確に描かれないものが多く、殺された直後の遺体が大写しとなりBGMとして殺害の瞬間の音声が流れるという演出がとられている。

この演出技法によって殺人という生々しい現象が、一見すると無機質なもののように感じられ、より不気味さが増すから不思議だ。


トゥールとTVを買いに行って店主を半田ごてで滅多刺しにするシーンも非常に印象的なシーンだ。

ヘンリーが半田ごてを突き刺す度にサイケなSEが流れる、サイレント映画の演出のようないささか前時代的演出だ。しかしそのストレートな表現がヘンリーの精神の昂りを見るものに伝わってくる。


主語のデカさ

作中、オーティスの前でヘンリーが初めて人を殺してしまった夜、オーティスを懐柔しようとヘンリーは言う

いつも同じで いつも違うのさ
誰が どうやるかさ
世の中をよく見てみろよ
お前がやるか 奴らか
わかるだろ?

常人では到底理解できない主語のデカさで殺人を肯定する、ヘンリーの異常さが際立ったセリフである。

何って主語がでかい。

多分これが理解できてはいけない、そんな気がする。

ベッキー

ヘンリーの人生においてキーパーソンとなった人物にベッキーがいる。

女性を忌み嫌っていたヘンリーが愛した数少ない女性の一人であったが、性的接触は無く、ヘンリーは性欲が高まると他の女性を襲って殺害してからベッキーの元へと帰っていったという。

作中でも「多分」という言葉で精神的バリアを張りながらも愛を囁くシーンがある。

ベッキーをヘンリーが殺害したことを示唆するシーンで本編が終わるが、どこか『セブン』を思わせる後味の悪いラストシーンだ。

ヘンリー自身ベッキーの殺害は非常に後悔したらしく、心境の変化からか彼女の殺害後は現場に証拠を残すようになる。

そんなんなら殺さなきゃいいのに。

総評

楽しむわけでもなく、悲しむわけでもなく、ただただ淡々と凶行を繰り返すヘンリーの異質さをストレートに表現した作品。

ゴアシーンが少ないにも関わらず視聴後しばらく引きずる後味の悪さは『セブン』を思い出させる。

特殊な演出もどんでん返しもないのにも関わらず、あなたの記憶にこびりつく一本になるはず。


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