あらすじを見ないと何が何だか分からない。ごくたまにそういった映画という名の映像作品があります。
あらすじ
ある朝、”男”は自分の頬から金属片が出ているのに気づく。
平凡なサラリーマンであった彼の日常はその日を境に徐々に鉄に蝕まれていく。通勤途中では眼鏡の女に襲われ、自分の体が次第に鉄と化していくのに困惑する男。全ては数日前に男が車で轢いてしまい、山林に捨てた”やつ”の復讐であった。
やがて全身が鉄に覆われたとき、男はやつと対峙する事となるが…。
映画なのか映像作品なのか
今作はまずあらすじを確認してからでないとかなり難解。
というのも登場人物は主人公の”男”とその彼女である”女”、そして”やつ”の三人しかおらず、ほとんど意味のあるセリフを話さないためです。
映画というよりも現代美術の映像作品に近い印象を受けました。
筆者はあらすじを読まずに視聴しましたが、ストーリーを追うのにかなり苦労しました、しかしその映像と田口トモロヲの演技は目を見張るものがあります!
監督・塚本晋也
全編モノクロで描かれる街・人・不気味な金属、そんな武骨な画作りは国内外で高い評価を得ました。
特に今作はローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞し、監督・塚本晋也の名を世の中に知らしめると共に田口トモロヲの映画俳優としての活動の足掛かりにもなりました。
その唯一無二の世界観に魅了される者も多く、なんと世界の著名な映画監督にも塚本フリークが多いそうで、そうそうたるメンツが並びます。
役者・塚本晋也
なんと監督を務める傍ら、役者としても活躍する塚本晋也。
今作の”やつ”も実は演・塚本晋也!
不気味な中に色気と魅力を湛えたキャラクターを見事に演じきっております。
最近でも大ヒットした『シンゴジラ』やスコセッシの『沈黙-サイレンス-』にも出演、マルチな才能を持った人物なのです!
考察
そんな偉大な作品を考察してみることにしましょう。
金属化する体
普通のサラリーマンが徐々に金属へと変貌していく様は、都合のいいように使っていたパソコンをはじめとする機械にいつの間にか使われる側になっているという現代社会を鋭く風刺しています。
もちろんターミネーターなどで”機械に人間が支配される未来”というアイデアは既に使われていましたが、そうした表現をより抽象的にしたものであると思われます。
ドリルと化した男性器
ことさらクローズアップされていたドリル化していた男性器は、そのまま男性の凶暴性とも取ることが出来ますし、ネット上の娯楽の一つとなってしまった性産業を予見していたのかもしれません。
”やつ”とはなんだったのか
筆者は性善説を信じていますが、インターネット…中でもSNSの普及によりその幻想は崩れかかっています。
それはまるで二重人格のよう、ハンドルを握ると豹変する人がいるように、自分の安全や平和が担保された空間の中で顕著に現れます。もちろん現実世界では礼儀正しい方が多いのは重々承知していますが、たとえ不特定多数が相手であっても匿名の環境であればその内に秘めた”凶暴性”が顔を出す人間がいるのです。
そうした人間だれしもが持つ二面性、滅多に人に見せない姿というのが”やつ”だったのではないでしょうか。
総評
こういった映像作品に近い映画は非常に難解で、ともすれば寝てしまうときもあります。
しかしずっと見れるのはその映像の迫力に説得力が籠っているから、著名な監督が虜になるのも分かるような気がします。
ジャンルに縛られない無軌道な映像を楽しんでみてください。
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