傍若無人なサイコパス幼女に弱点を握られてしまった極悪宇宙人の珍道中を描くスプラッタコメディ
馬鹿馬鹿しくて下らないってほんとにサイコー
作品名(評価):サイコ・ゴアマン(B+)
制作(公開年):カナダ(2020)
監督:スティーヴン・コスタンスキ
主演:ニタ=ジョゼ・ハンナ、黒沢あすか 他
あらすじ
太古より庭に埋められていた銀河の破壊者<残虐宇宙人>は、少女ミミ(8歳)により偶然掘り当てられ封印を解かれた。
だが、すかさず容赦ない殺戮の限りを尽くすはずが、極悪な性格のミミに自身を操ることが可能な宝石を奪われていた。
かくして無慈悲にして計り知れぬ力を誇る暗黒の覇者は、サイコ・ゴアマンと名付けられ少女にたいへんな仕打ちを受けることとなる。
一方、残虐宇宙人の覚醒を察知したガイガックス星の正義の勢力<テンプル騎士団>は宇宙会議を開催、最強怪人パンドラを地球に送り込む――。
公式サイトより引用
エンタメってこれでいい
残虐宇宙人がサイコパス幼女に好き勝手されたらどんな感じになるんだろうね?というTwitter漫画でバズるようなアイデア一本で貫き通した一本
内容はとにかく非常識で不条理でナンセンス、残虐宇宙人は結局最後までミミの言う事聞くし、ミミのボーイフレンドは最後までずっと脳ミソに目が付いた化け物のまんまだし…
真面目ぶった奴はこの映画を見た後にきっと言うだろう
「この映画って見た後に何が残るの?」
はぁ?
コレそういう映画じゃねーから!!!
お前の椅子ねぇから!!!!!!!!!
非常識でナンセンスで残虐、実生活で絶対に体験できない体験ができる。意味なんてない、教訓なんてない、全方向に喧嘩だって売ったっていい
馬鹿馬鹿しくても胡散臭くても、限られた時間の中で表現されたものを全部吸い込むのがエンターテイメントだろうが!!!!
そんな感情を揺さぶられるのがこの『サイコ・ゴアマン』という映画だ
小ネタ
ストーリーとか伏線だとか、そんなものを地平線の彼方までぶっ飛ばした今作
言い換えれば過ぎ去っていく映像にちりばめられた小ネタを拾っていくライブ感に溢れた映画ともいえる
前述の脳ミソの化け物に替えられたのにもかかわらずラストシーンまでほぼそのままほっとかれるアラスター、サイコゴアマンを馬鹿にしたがために爆散されたクソガキ、不死の体にされてしまって死にたがるゾンビ警察官…
普通の作品であれば言及されたりするであろう出来事はほぼスルーされてしまう、なんたって登場人物ほぼ全員がぶっ飛んでいて作品を通してツッコミ役が居ないのだ
この映画を見た者はSNSや一緒に見た人と「アレ何だったのww」と語らい合いたくなってしまう、言い換えれば視聴後の会話の弾む作品と言っていいのかもしれない
うすた京介や増田こうすけの漫画が好きな人、TRICKのウヌャニュペェィギュゥリュ星人みたいなストーリーに何の意味もないような小ネタが好きな人には非常におすすめだ
特撮
サイコゴアマンのフォルムを見てもらうと分かると思うが、フォルムが若干グロいだけでめちゃくちゃウルトラマンである
さらにサイコゴアマンと対立するガイガックス星のテンプル騎士団の連中も初期のスターウォーズみてぇな着ぐるみ感満載の怪物がずらりと並んでいて、その中でもパンドラなんかは戦隊もののヒーローそのまんまのビジュアルをしている
宇宙人同士が交錯する戦闘シーンなんかはもろに日曜朝の雰囲気が漂い、敵の一団の中には日本人の声も聞こえる。ウィッチマスターとかいう化け物の声優として参加しているのは『冷たい熱帯魚』のエロい人妻役でお馴染みの黒沢あすか
ちょっと前の戦隊ものはAV女優がきわどい衣装で敵の女幹部を演じたりしていたが、まさにそんな役どころにぴったりで選出も納得だ
フォルムがウルトラマン、戦闘シーンがニチアサの感じ、女幹部が日本人…以上のように今作は日本の特撮に物凄い影響を受けた作品でもある
ミュージカル映画へのDis
かつてある人物はこういった
「何でミュージカルの登場人物は死ぬ前にハモって歌って死ぬんだ?」
これはミュージカル嫌いを公言してはばからなかったタモリの言葉である
筆者はミュージカル映画もたまに見るので、完全に同意とまではいかないが確かに分かる
人はそんなに日常生活で歌わない
このサイコゴアマンには主人公ミミが何の脈絡もなく、なんか良さそうな曲を急に歌い出してなんか知らんが丸く収まりそうになるというミュージカル作品へのDisシーンがある。
ゴア要素のあるコメディを見る視聴者層ならわかってくれるでしょ?と、監督のミュージカル作品へのひねくれた意識が垣間見える一コマであるが、あまりに唐突過ぎるので厭味ったらしさがないギャグへと昇華されている
傍から見た小競り合い
そんなメチャクチャナンセンスな作品であるが、折角なので考察していこう
サイコゴアマンは惑星を滅ぼす力のある宇宙人で、そのサイコゴアマンを倒そうとするテンプル騎士団のパンドラも強大な力を持ったキャラクターである
今作のストーリー自体も地球、ひいては宇宙の存亡がかかった割と大きな規模のお話なのだ
にもかかわらず最終決戦はミミの家の近くの廃倉庫で、勝負内容もチャンバラではなくミミ考案の謎競技クレイジーボールで行われる。やってる方は真剣でも傍から見るとものすごくバカバカしい。
なぜ我々は地球存亡がかかった最終決戦をそんなにバカバカしく思えてしまうのだろうか?
それは当事者意識の有無だ
アフガニスタンをタリバンが統治した、ミャンマーではロヒンギャが迫害されている…そんなニュースを目にしても「ふ~~~~ん」としか思わない方が大多数であろう
なぜなら当事者意識が全くないから。
アフガニスタン国民もロヒンギャ難民も明日を生き抜くことさえ確証が持てない世の中を生活している、当事者にとっては大問題だ。
しかし遠く離れた国でインターネット見ながら屁をこいている我々にとって、こうした問題は1データに過ぎない。だから深く考えない。
サイコ・ゴアマンのラストシーンはこうした他国の問題に無関心な人々の心情を俯瞰的に表現した作品なのかもしれない。
ぜってー違うけど。
総評
チープでバカバカしくナンセンス、まじめな人が見たら意味のない映画と吐き捨てられるかもしれない。しかし監督のやりたいことを表現して尚且つそれが監督の自慰行為に留まらず、視聴する人が空っぽにしてクスクス笑うことができる今作は、まさしくエンターテイメントであると思う。
うすた京介や増田こうすけの漫画や、TRICKのどうでもいい小ネタが好きな方にはまず間違いなくお勧めできる作品だ
きっとあなたは2021年で一番無駄で、2021年最も有意義な95分間を過ごすことができるに違いない。
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