~本編に関するネタバレがありますご留意ください~
「シャイニング」から40年、映像美と狂気に満ちた不朽の名作の続編を鑑賞してきました。
あらすじ
前作から直後命からがらオーバールック・ホテル から脱出した 母ウェンディとダニー少年。
ダニー少年には「シャイニング」という超能力があり、ホテルでも奇怪な化け物や現象をたびたび目撃していた。
ダニーはあの、人を喰う飢えたホテルに住んでいた化け物たちに怯え失声症になでなってしまったが、後に自分と同じシャイニング持ちのハロランという黒人男性にテレパシーで化け物への対処法とシャイニングの使い方を教えてもらうと、とんと元気になった。
それから30年後、父同様にアルコール中毒に苦しむダニーはその退廃的な生き方を改めようと、旅した先でビリーという親切な男と出会い住む場所と仕事まで紹介してもらう。
アルコール依存症のダルクへも通うようになり、そこで出会った医者の助手の仕事もするようなった。
シャイニングの能力で死期を悟る力もあるダニーは、死ぬ直前の患者の病室に出向き「死は眠るようなもの」と説く、患者からは「ドクター・スリープ」と呼ばれたりもした。
患者を看取った夜、部屋に戻ると壁に「HELLO」の文字が、どうやら同じシャイニング持ちからの交信らしい。
送信元はアブラという黒人少女からのもの、彼女も強力なシャイニング持ちで時折両親を驚かせ、そして心配させていた。
そこから更に8年後のある日、アブラは不思議な集団がシャイニング持ちの少年を殺害し「生気」を吸っているのを千里眼で見てしまう、
混乱したアブラはダニーにテレパシーでメッセージを送る、鏡越しにそのメッセージを見たダニーは戦慄する
「REDRUM」
それは幼少期に オーバールック・ホテルでも見た不思議なメッセージであったからだ。
ダニーはアブラと共に不思議な集団「魂の絆」との新たな戦いに身を投じていく。
映画「シャイニング」への意趣返し
この作品について語る前に、前作「シャイニング」についても言及しなければいけません。
前作監督S・キューブリックと原作者S・キングはキャスティングの段階から仲たがいし、
キューブリックが映画へのバッシングを止めることを引き換えにキングにドラマ版の制作を許したほどでした。
なぜそこまで揉めてしまったのか?
それは本編の内容が原作と大きく相違していたからです。
原作はダニーの超能力「シャイニング」に重点を置いていたのにも関わらず、映画ではほとんど触れられませんでした。
しかし映画はキューブリック監督の作り出す映像美と禍々しい雰囲気によって大ヒットを飛ばしました、キングは面白いわけがありません。
時は流れてキューブリック監督も亡くなりました、ここぞとばかりに執筆された続編はこれでもか!というぐらいの「シャイニング」推し!
ここにはきっとキングの映画「シャイニング」への意趣返しも含まれていたに違いありません。
現に、前作の印象的なシーンである廊下に大量の血が流れてくるシーンがあるのですが、今作でもまんまオマージュされています、そしてそれを見て今作の登場人物がフっと笑うんです!
「見てるかキューブリック!」
そんな気持ちさえこのシーンからは感じることが出来ます。
なんたって不朽の名作である前作をまるまる「フリ」に使ったのですから!
今作ではあのオーバールック・ホテルの惨劇はあくまで強大な敵を倒すための伏線でしかないのです!
良質なSF作品
「ドクター・スリープ」は良質なSFバトルアクション作品でした、
前作の雰囲気を楽しむために劇場に向かうと肩透かしを喰らうかもしれません。
しかし肩透かしを喰らうとしても見ておくべき作品だと思います!
魅力的なキャラクター
敵となるシャイニング集団「魂の絆」の面々や40年後のダニーも勿論魅力的なのですが、
そうしたメンツを全て食ったのがアブラ役のカイリー・カランです。
新人にも関わらず、スクリーンでの堂々とした演技は大物の雰囲気を感じました。
今後大注目の女優になっていくこと間違いなしだと思います!
役どころも圧倒的な力をもつ「魂の絆」のトップ・ローズに真正面から啖呵をきるシーンなんかめちゃくちゃアツいんです!
アツい展開
前作と比べて全く違うのが、ストーリー展開が鬱屈とせずアツいという点です。
- シャイニングの師であるハロランのとある「助言」
- ローズへの啖呵
- 幼少期のトラウマ克服シーン
- シャイニング対決シーン
- 前作オマージュ
- 受け継がれる意志
などなど、挙げていたらきりがないのですが
どっちかというと少年漫画的なアツい展開の連続で、前作とはまた違った趣向で引き込まれる作品となっています!
前作との関連
前述の通り、前作との関連は後半まで全く別の映画であるかのように薄いです。
むしろ中盤は意図して全く別の映画のようにしている気さえします。
なんでオーバールック・ホテルが出ないんだ!私たちが見たいのはホテルのその後なんだ!
前作ファンの不満にも近いそうした感情が一気に爆発するのは後半にかけて、
廊下に迫りくる大量の血・不気味な双子・禁酒を破らせようとしてくる実在しないバーテン…
その中でも、前作でホテルの怪異に取り込まれてしまったダニーの父・ジャック・トランスが出演するシーンがまた良いんです!
虐待されていたとしても愛していた父、そしてトラウマの元凶でもあったその幻影を振り払うのは今作で最も印象深い部分であり、前作の総括でもあったと思います。
対比
前作『シャイニング』はコロラド州の美しい湖と山々をなめる映像から始まり、朝早くのオーバールック・ホテルに向かうトランス一家へと場面転換します。
そして今作ドクター・スリープでも、物語の後半オーバールック・ホテルへと向かう道中、前作と全く同じアングルで湖と山々を映すシーンが出てくるのです、ここでの一番の違いは場面が夜であるという事。
『シャイニング』の始まりを予期させる”朝”と物語の終結、そして足掛け40年に渡ったシリーズの終焉を思わせる”夜”の対比。
気付いた時にぞくっとさせる要素があるのも続編映画の魅力です。
総評
前作の雰囲気を感じたいキューブリックのファンであれば、今作の事は忘れてもう一度「シャイニング」を見るべきです。
しかし、いくら肩透かしを喰らってでも見るべき要素は多々あります。
前作への意趣返しとも取れる熱量の強さ、少年漫画的展開、そしてダニーとオーバールック・ホテルの結末。
40年という歳月を経て完成した前後編の傑作を是非劇場で見ましょ!
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