愛する家族が行方不明に、帰ってきたと思ったら認知症が加速度的に進んで…という展開から急転直下のホラー展開
正直思ってたのと違う今作を徹底考察していく
※本編に係るネタバレがあります、ご注意ください
作品名(評価):レリックー遺物ー(B-)
制作(公開年):アメリカ、オーストラリア(2020)
監督:ナタリー・エリカ・ジェームズ
主演:エミリー・モーティマー、ベラ・ヒースコート 他
あらすじ
森に囲まれた家でひとり暮らしをする老女エドナが突然姿を消した。
娘のケイと孫のサムが急いで向かうと、誰もいない家には、彼女が認知症に苦しんでいた痕跡がたくさん見受けられた。
そして2人の心配が頂点に達した頃、突然エドナが帰宅する。だが、その様子はどこかおかしく、まるで知らない別の何かに変貌してしまったかのようだった。
サムは母とともに、愛する祖母の本当の姿を取り戻そうと動き出すが、変わり果てたエドナと彼女の家に隠された暗い秘密が、2人を恐怖の渦へと飲み込んでゆく…。
公式サイトより
前後半の趣向
この映画は前後半で大きく趣の異なった作品である。
前半は行方不明になり不意に帰ってきた祖母が起こす奇行と、家に侵入しているとみられる何者かの不気味さを楽しむ正統派ホラー
そして後半は何の脈絡もなく歪んだ空間となった家の中を、何者かに憑依され異形となった祖母から逃げ惑うという不条理パニックホラーとなっている
前半の雰囲気を楽しむつもりで映画館の席に座ると、後半への急転直下の展開は正直かなり面食らう。しかも最後まで事態の細かい説明は無く、ラストシーンまでのストーリーは視聴者が勝手に推測するほかないという抽象的な造りとなっているからだ。
明確なオチを求める方にはお勧めできないが、考察好きのホラーフリークには是非見てもらいたい一本ともいえる。
考察
エドナは誰に憑依されていたのか
物語後半にかけてどんどんと認知症とは別の理由で奇行を繰り返すようになったエドナ
最終的に異形の存在となりケイとサムを恐怖のどん底へと叩き落すことになったが、結局エドナは何に憑依されてしまったのだろうか?
憑依したものの正体、それは曾祖父であると考えられる
作中では明言されていないがケイの話と時折挿入されるケイの夢から察するに、曾祖父は家から少し離れた小屋に住んでおり晩年は認知症に冒されていた
そして誰にも気づかれることはなく孤独死。遺体は誰に気づかれることもなく放置され腐敗が進んでしまった
家族に看取られることもなく死んでいった曾祖父の怨念は呪いとなり、小屋へと宿ることとなる。この曾祖父の怨念がエドナに憑依したのだ。
根拠として、中盤エドナがアルバムを地面に埋め「みんなはどこ?」「家に帰りたい」と泣き出すシーンが挙げられる
これは認知症のようにも見えるが、家族に看取られなかった虚しさと離れでポツンと暮らしていた状況に対しての言葉をエドナの口を介しケイに伝えたとも取れる
またラストシーン、エドナの皮をはがし中から出てきた人物には乳房が無かったことからも男性である曾祖父に憑依されていたことが伺える
何故家が異空間化したのか?
終盤サムとケイが迷い込むことになる異空間化したクローゼット、いきなりの展開に?マークが浮かんだ方が多い展開だったが何故家が異空間化したのだろうか?
ずばりステンドグラスがその根源にあると筆者は考える
前述の通りこの怪異の正体は孤独死した曾祖父の怨念だ、そしてエドナが暮らしていた家はその曾祖父が孤独死した小屋のステンドグラスを埋め込んだドアーがある
曾祖父の怨念は小屋に充満していたが、やがて取り壊され唯一残ったステンドグラスは新しい家に取り付けられてからもその怨念は残り続けた
そして孤独死した自らとは対照的に、子供と孫が心配して様子を見に来てくれるというエドナに対して逆恨みの様な感情を抱くことで呪いが強まり、ステンドグラスを媒介として家全体を異空間化する力を発揮したと考える
今作のタイトルであるレリックは遺物という意味があるのも、このステンドグラスが今作を象徴する特別な遺物であることを示す証左である
ラストシーンの意味とは?
同情したケイがエドナの皮をむき、現世に顕現した曾祖父の怨念を慰める。サムも恐る恐る川の字になって曾祖父の魂と向き合うが、彼女の目に入ってきたのはエドナの胸にあったアザがケイの背中にも発現していることだった。
この背筋に冷たい汗が伝うようなラストシーンが意味するものは何だったのだろうか?
そもそもこのアザは曾祖父の呪いでもあり、”老い”という人類が逃れられない死に至る呪いのメタファーでもある
つまりケイにも曾祖父の呪いが伝播したというようにも取れるし、死に至る老いが進み始めたことを暗示しているシーンなのだ。そしてこの呪いはケイを殺した後、サムにも承継されることになる。
エドナの一族は生まれながらにして呪われた一族であり、我々人類も老いという死にいたる呪いを受けているということもいえるのかもしれない
時系列
以上の考察を踏まえるとレリックの時系列は以下のようになる
- 曾祖父 孤独死
誰にも看取られず腐敗した状態で見つかる
- 家の建て替え
曾祖父の小屋のステンドグラスが扉にはめ込まれる
ステンドグラスは曾祖父の無念が詰まった呪いの遺物だった
- エドナの夫死去
エドナの認知症と曾祖父の呪いが強まる
- エドナ ジェイミーをクローゼットに閉じ込める
ジェイミー一家と疎遠に、孤立する
この出来事も曾祖父の呪いが引き起こした可能性がある
- エドナ 行方不明に
異空間となったクローゼットに迷い込んだか
この時点でエドナは曾祖父に憑依される
- ケイとサムがエドナを訪ねてくる
この出来事が呪いを強めることになる
- エドナ姿を現す
奇行が増えるごとに胸のアザが広がってゆく
- サム、エドナと住むことを決意
曾祖父が表に出てくる一番のきっかけとなる
- サムとケイ曾祖父が憑依したエドナに追われる
- ケイ無念の内に亡くなった祖父を気遣う
しかし彼女の背中にもアザは発現
老いという逃れようのない呪いを受けることになる
総評
人類が決して逃れることのできない呪いである”老い”をテーマとしたホラー作品。愛する家族がある日突然別人のように変貌してしまう、介護を経験した者にしか伝わらない怖さを表現した一本だ
しかし思っていたよりかもストーリーが視聴者の感じるところ任せで抽象的、ちょっととっつきにくい印象を受けた。一目見て分かるような視覚情報よりも感情に訴えかけてくる部分が多いのは女性監督ならではなのかもしれない
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