ウルフウォーカー 自然と人間、西洋版もののけ姫

スポンサーリンク
S級作品
この記事は約5分で読めます。

中世のアイルランドを舞台としたファンタジーアニメ。独特な作画ながら様々な映画賞を受賞し、ゴールデングローブ賞にもノミネートされたジブリ作品顔負けの一本。

作品名(評価):ウルフウォーカー(S-)

制作(公開年):アイルランド、ルクセンブルク、アメリカ合衆国、イギリス、フランス(2020)

監督:トム・ムーア

主演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー他

スポンサーリンク

あらすじ

1650年、アイルランドの町キルケニー。当時、厳しい支配者である護国卿の指示のもと、オオカミ退治が命ぜられ木が切られ日々森が小さくなっていく

その最中にイングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン。ある日、森で偶然友達になったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある “ウルフウォーカー”のメーヴだった

メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。翌日、森に行くことを禁じられ、父に連れていかれた調理場で、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る

Wikipedia より

影響

下書き感を残した線画、飾り気のない素朴な三頭身キャラ、主に暖色で書き込まれた背景など独特な雰囲気をかもしだした今作は『ブレンダンとケルズの秘密』(2009年)と『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014年)に続く「ケルト三部作」の3番目で最後の作品だ

監督であるトム・ムーアは1977年生まれのアイルランド出身。22歳という若さでアニメスタジオ「カートゥーン・サルーン」を設立した彼の作風は、日本のアニメーションスタジオ・スタジオジブリの作品から影響を受けており中でも好きな作品は『となりのトトロ』や『もののけ姫』だという

そんな監督が影響を受けたというもののけ姫のテーマは“自然との共生”であった

そんなジブリイズムを継承するこのウルフウォーカーも、もののけ姫と同じようなテーマを持った作品となっている。

もののけ姫との相似

今作のタイトルとなっているウルフウォーカーは、昼間は人の肉体を持ち夜寝ると魂が人間の肉体から離れて狼の姿となるという人間と狼の狭間の存在だ

ウルフウォーカーの主人公メーヴは人間でありながら人間社会と隔絶して生きるもののけ姫でいうところのサンであり、人間と自然を繋ぐ使者の役割を果たしている

対して人間側の主人公ロビンはイングランドの自然あふれる世界からアイルランドの規律ある街へと越してきた少女だ

行動が縛られる街より自然が好きな少女で、メーヴとの出逢いにより自然と人間の調和を図る存在となる。もののけ姫でいうとアシタカのポジションになるだろう

そして今作の悪役として描かれるのは街の統治者である護国卿だ、人間の生活のため森を切り開き狼とウルフウォーカーを敵視する悪役として描かれている。もののけ姫でいうエボシ御前のポジションだろうか

このように監督自身が影響を受けたと語るもののけ姫に非常によく似た類型の作品となっており、西洋版のもののけ姫と言っても過言ではないかもしれない

ちなみにロビンにはアシタカでいうヤックルのようなハヤブサの相棒マーリンまでいる

護国卿

オリバー・クロムウェルの肖像画Wikipediaより

今作の敵キャラクターとして描かれる護国卿は、伝説上の人物がモデルとなったエボシ御前と違い16世紀にイングランド共和国の初代護国卿として独裁をしいたオリバー・クロムウェルという実在の人物をモデルとしている

クロムウェルは今作の護国卿と同様、敬虔なクリスチャンであると同時に野心家でもあった。

彼の野心はピューリタン(清教徒)革命にはじまり、時のスチュアート朝イングランドの国王チャールズ一世を打倒すまでにいたる。

その後イングランド共和国の実権を握り軍事独裁をおこなうが劇場を封鎖し、ほとんどの娯楽を禁じるなど厳格な宗教観に基づく独裁政治はやがて民衆の反感を買うことになってしまう。クロムウェルはインフルエンザによって命を落とすことになるのだが、彼は死後に王への反逆者として墓を暴かれ首を斬られるというあんまりな結末を迎えるのだった。

ここまでの情報を見ると、民衆からの評価が低い独裁者という側面しか見えてこない。しかし19世紀に入るとイギリス知識人からの再評価がすすみ数百年経った今も、類稀な優れた為政者か強大な独裁者か歴史的評価は分かれているのだ

護国卿は絶対的な悪ではないのかもしれないのである

それぞれの正義

確かに自然側であるメ―ヴからみると護国卿は自分たちの棲み処を奪う絶対的な悪だ、しかし人間側からみるとどうだろうか?

環境を破壊し領民には圧政を敷いていた護国卿であるが、その環境破壊も領民の生活をより豊かにするための領地の拡大のために仕方のない犠牲だったのかもしれない。領民にしいていた圧政も、政変による動乱を防ぐための苦渋の決断だったのかもしれないのだ。

もちろん私利私欲下心がなかったとはいえないだろうが、護国卿もメ―ヴたちウルフウォーカーと同様自分の棲み処と家族・領民を守るために行動している

つまりどちらにも正義と信じるモノが存在していることになる

ウルフウォーカーたちの方が古くから森に棲んでいるので正統性はあるのは間違いないが、この物語は自然との共生の尊さの他に異なる正義のぶつかり合いを描いているのだ

現実

山火事と鹿

そしてこの自らが信じる正義のぶつかり合いは現実でも起きている、人間は発展こそ正義であると森を切り拓き環境資源を現在進行形で貪りつくしているのがそのいい例だ。その結果が酸性雨や地球温暖化による海面上昇、異常気象という自然からのしっぺ返し

これは人類と自然との戦争状態と言ってもいいのかもしれない

ウルフウォーカーではメ―ヴたち自然側が人間側を力で打倒した。果たして現実世界では自然をこのまま痛めつけて自らの首を絞めるのか、もののけ姫のように自然との共生を図っていくのかは分からない

総評

タイトルでブチあげた通りもののけ姫からの影響を色濃く感じさせる作品であるが、実在の人物をモデルとしたキャラクターやストーリーと作画はオリジナリティにあふれる一本

残念ながら2020年度のアカデミー賞長編アニメーション部門は『ソウルフルワールド』に取られてしまったが、2020年度のベストムービーに挙げる映画好きが多いのも頷ける

千と千尋以降パッとしない本家よりも、自然との共生というテーマを分かりやすく伝えるストーリーにはジブリイズムを感じた

コメント