MAMA 歪んだ母性vs芽生えた母性

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MOVIE
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ダークファンタジーを撮らせたら一級品のギレルモ・デル・トロが製作総指揮、ITシリーズの監督アンディ・ムスキエティがメガホンをとったホラー映画です!

ホラー映画の中でも母親が強い作品は面白い作品が多いですよね!

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あらすじ

投資仲介会社の経営者であるジェフリーは、ある日精神を病んでしまい、共同経営者二名と自らの妻を殺害。幼い娘二人を連れて森の奥の小屋へと辿りついた彼は、そこで二人を殺害しようとするも、小屋に潜む何者かに襲われて姿を消した。

それから5年後、ジェフリーの弟であるルーカスは、あの小屋で姉妹を発見する。奇跡的に生還していた彼女たちの精神状態に強い興味を持ったドレイファス博士の協力のもと、彼は恋人のアナベルと姉妹とで博士が用意した家で共同生活を営むことにする。

だが、共同生活を始めたある日、アナベルの周りで不可解な現象が起こり始める。

陰鬱と不気味

狼に育てられた子供たちとして有名な”アマラとカマラ”から着想を得ているように感じられる今作、一見すると異形の存在である”MAMA”に目を奪われがちではありますが、注目すべき点は他にも多々あります。

まず最初に挙げられるのはデル・トロのテイストとムスキエティの才能が如何なく発揮された陰鬱で不気味な画です。

鬱蒼とした森、打ち捨てられた別荘、無数の蛾、壁の黒いシミ…挙げればきりがありませんが、不気味な絵面はデル・トロイズム。

MAMAの見えそうで見えない登場シーンや緩急つけたびっくりシーンは、後のITシリーズにも活かされています。よくよく見てみるとMAMAのキャラデザがまんまITシリーズの絵の中の女で流用されているので、気になる方は確認してみてくださいね!

母性

この映画で一番のテーマとなっているのが”母性”です。

今作の主人公であるアマンダ、彼女は彼氏のルーカスとの甘い生活を続けたいがために妊娠を望んでいない描写から始まるわけです。母性のかけらもなかったアマンダが、MAMAという化け物に育てられた無垢な少女と交流する内に成長し、母性に目覚める様が描かれます。

一方、MAMAも歪んではいますが我が子を思う母性を持つ悲しい化け物として描かれます。

一家心中に巻き込まれそうになった子供たちを助け、サクランボという食糧を与えて暇つぶしにも付き合う。幼い二人からは社会性こそ失われましたが母としての役割を五年間も務めた事には変わりません。

終盤この二人の形の違う母性同士がぶつかり合う訳ですが、非常にアツく・切ないラストが印象的な作品となっています。


このテーマに因んでいるのか、MAMAと幼い姉妹が過ごした家には”Helvetia”という看板が掛けられていました。

Helvetiaとは? ~Wikipediaより~

アルプス山脈とジュラ山脈に囲まれた台地からなる古代ヨーロッパ中央地域のローマ名である。ほぼ現代のスイス西部に該当し、その名前は現在でも詩的に使われている。

Helvetiaですが、スイスを象徴する女性に擬えられることがあるそうです。「スイスの」とも呼ばれることもあるそうで、この映画のテーマを暗に示唆しています。

ヴィクトリアの眼鏡

作中印象的な役目を果たしていたのが幼い姉妹の姉・ヴィクトリアが掛けていた眼鏡です。

社会性が養われていた両親と生活していた頃、目が悪かった彼女は出かける際眼鏡を着用していました、先天性の近視であったため眼鏡がないと人の輪郭さえぼやけて見えないという描写があります。

そして、件のMAMAと邂逅し眼鏡は破壊され、彼女の社会性は失われてしまいます。この映画の中で眼鏡は社会性の象徴でした、現に彼女が救出され社会性を取り戻すきっかけとなったのもルーカスから渡された眼鏡でした。

妹のリリーの方は眼鏡を掛けておらず、結局社会性が野生に勝ることはなく、実の母親よりも濃密な時間を過ごしたMAMAへの依存性が強く見られました。彼女もやはり姉と同じく先天性の近視だったのではないでしょうか?

食料に関して

また、MAMAが姉妹に食料として与えていたサクランボですが、花言葉はspiritual beauty(精神の美), a good education(優れた教育)。このどちらとも欠けていた化け物には皮肉なものでした。


さらに、作中妹がアマンダに隠れて蛾を食べているというシーンが出てきます。単純に見れば妹の社会性が如何に失われているかが現れている場面です。

しかしラストシーンを見てからみると、この世ならざる黄泉の国の穢れた食べ物を食すことで黄泉の住人となってしまう”黄泉戸喫(よもつへぐい)”を想起するシーンであることが分かります。

彼女の命運はこの時にはもう決定していたのです。

総評

『パンズラビリンス』と『IT』の世界観がちょうどいい感じに折衷されているバランスの良い作品。ITシリーズに流用されているMAMAの造形はそこまで怖くないが、CGではなく実際の人間が演じているというのが逆に怖い。(上記写真はMAMAを演じた俳優・ハビエル・ボテット )

SILENT HILLの雰囲気を感じる作品でもありますし、ホラーgifでお馴染みのシーンも出てくるので、ホラー映画ファンは是非見てほしい一本です!

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