汗臭いデブ親父が奮闘する暗喩がちりばめられた死に戻り系ムービー!
あらすじ
とある出来事によって愛する妻を死なせてしまった中年男性エドガー。
しかしその直後エドガー自身も失意の中持病の悪化で死んでしまう。
気付くとエドガーは謎の施設に居ることに気づく、その施設に入所している者は皆一様に死んでおり愛する人を殺害した人物だという。
そこでは毎日グループセラピーが行われていた、自分のした所業を入所者の前で何回も話し、反抗的な態度をとればリモートで参加している老婆の講師に体罰を与えられる。
またエドガーを心底うんざりさせたのが、セラピー後自分に与えられた扉を開くとやってくる、”妻を死に追いやった一日の追体験”であった。その日と全く同じ言動をとらなければ終わることのない一日…
果たしてエドガーは施設から脱出することが出来るのか?妻は、エドガーは何故死ななくてはならなかったのか?謎が徐々に明らかになってゆく。
タイトル
名は体を表すとはよく言ったもので、作品において題名というのは非常に重要なものだ。
今作はド直球、一切何にもひねらず原題を直訳しているためこんな投げやりなタイトルになってしまっている。
しかし、そんな投げやりなタイトルと裏腹に、死に戻り系としてもサスペンス系としても佳作といってもいい作品となっている。
端的に言うとタイトルとのギャップがすごい作品なのだ。
暗喩
というわけで非常に暗喩に富んだ作品を考察していこう。
賽の河原
いらすとや、マジで何でもあるな
三途の川には、親より先に死んだ子供たちが両親を思ってひたすら石を積み、それを鬼に壊されるという行為を繰り返す賽の河原という恐ろしい場所がある。
最愛の人を死に追いやってしまった一日を、一挙手一投足・一言一句同じように繰り返すというエドガー達入所者に課された罰は、まさに賽の河原を具現化したものといえる。
地獄
言わずもがな、エドガーが迷い込んだ謎の施設は地獄。
しかし我々が想像しているような、針の山地獄だとか釜茹地獄だとかの体罰的な贖罪が求められるようなものではなく、
ただ1日をひたすら繰り返す、というネチネチした嫌〜な感じの贖罪を求められる現代ナイズされた地獄が表現されている。
ちなみにキリスト教にも地獄という概念はあり、罪人が永遠の劫火に炙られる場所らしい。
対してイスラム教は地獄では神の火と呼ばれる劫火に焼かれる他に、一度噛まれると毒が40年も続く馬鹿でかい大蛇なんかがいるらしい。
違う宗教なれど、面白いことに地獄に対するイメージは劫火なのだった。
鬼
地獄を統治する長は閻魔大王、その下について地獄に落ちた者をイビリまくるのが鬼だ。
今作では閻魔大王こそ出てこないものの、鬼の役割を果たす登場人物がいる。それがTV画面の中から入所者たちを管理する老婆やハゲだ。
TV画面の中から出てこないものの、反抗的な態度を取れば厳しい叱責がとび、それでも反省が見られなければ念力でキンタマを潰されてしまう。
念力を使う所はもちろんだが、TV画面越しというのも現世の人間とは違う高次元の存在だということを暗示しているようだ。
天井の穴
贖罪のための装置
エドガーが執着していた天井の穴、そこからは子供の声が聞こえており脱出の道だと思い込んでいた。
しかしフタを開けてみれば、その穴は妻を死に追いやった一日を客観的に見つめ直すという、また別の贖罪を促すためのものだった。
蜘蛛の糸
お釈迦様が戯れで地獄に降ろした一本の蜘蛛の糸、大罪人であったカンダタは天国に続く糸を独り占めしようとした結果、糸はぷつんと切れてカンダタは再び地獄の底へ落ちていく。
この天井の穴はそんな蜘蛛の糸と同じようなものだったのではないだろうか?
反省し改心し、誰かと協調することで穴を通ることが出来たのなら現世へと戻れるような穴。
現にエドガーは自分だけでもと一人天井の穴をくぐった結果、贖罪の続きをする羽目になってしまったし、TVの中の鬼たちは「まだ準備が出来ていない」といっていた。
エドガー
容姿に恵まれず友人も少ないエドガー、誇るものの無い人生の中で唯一自分の支配下に置くことが出来たのがフィリピン人の妻であった。
自信の無さからくる劣等感から妻を所有物として考え、ただただ愛と金を渡せば従順に従うものと考えるようになる。
しかし妻を死に追いやり、謎の施設で贖罪を続けるうちに自分を客観的に見ることが出来た。
そして”自己犠牲という最大の愛情表現”に目覚めたエドガーは、現世に戻るという蜘蛛の糸はつかみ損ねたかもしれないがもう以前の彼とは別人だった。
主人公だからといえば当たり前かもしれないが、今作で唯一人間的に成長しているのがエドガーである。
総評
タイトルはもちろん、小太りメガネのおっさんが顔面蒼白で頑張るという絵面は非常に地味な作品であると思うが、地味ながらも時間が巻き戻る演出やストーリー展開で観客を飽きさせない。
一時間半という短い作品なので隙間時間にサクっと見れるのも嬉しいポイント。
みな誰もが思ってもみないことで他人を傷つけながら生きている、そんな日々忘れがちなことを思い起こさせてくれるような一本だった。
にほんブログ村
コメント