“それ”がいる森 これがJホラーの現在地だ

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MOVIE
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悲しいかな、ジャパニーズホラーは終焉の一途を辿っていると言わざるを得ない、そんな出来の一本を批評する

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あらすじ

田舎町で一人暮らしをする田中淳一。

ある日、息子・一也が1人で訪れ、しばらく一緒に暮らすことになる。

やがて、彼らは得体の知れない怪現象に巻き込まれていく。

既視感

かつて日本を代表するホラー映画監督として名を馳せていた中田秀夫

1996年に『女優霊』1998年『リング』と神がかり的な作品を連発した頃の彼はもういない

ホラー映画のアイコン的キャラクター作りは『仄暗い水の底から』以降迷走し、『クロユリ団地』のミノルや『事故物件 恐い間取り』で出てくる大量のふざけた幽霊など一周回ってシュールな方向へと進んでいる

今作のアイコンとなる地球外生命体“それ”も、グレイ型の宇宙人が基となっており、人間を捕食する場面での変貌は『IT』のペニーワイズの口を彷彿とさせる。

また、”それ”の残像を残しつつ急にペースを上げて迫ってくるという移動方法はバルタン星人がやっている方法と似ている

こればかりはこじつけかもしれないが、”それ”の弱点がオレンジの炭疽病で身の回りのありふれたものだった、というのも『マーズ・アタック!』で宇宙人の弱点がウェスタンミュージックだったという部分と相似している

つまるところオリジナリティが感じられない

怖くない

既視感以上にまずいのが、ホラー映画というジャンルにも関わらず怖くないという点だ。

早々に宇宙人の仕業というのが判明し、正統派のホラーからは道を逸れてしまっている

またよくあるジャンプスケアでは驚きこそすれ怖がることはできない

肝心要の”それ”もペニーワイズの造形には到底敵わないただのグレイ型宇宙人。偶然なのか意図してなのか”それ”被りにも関わらず両者にはダブルスコア以上の差がついている

邦画と洋画のレベル差

また内容に関しても言いたいことがある、今作は厳密にいうとSFホラーであり同時期に公開されていたNOPEも同ジャンルの作品だった

しかし両者には天と地ほどのレベル差があった、ほんと悲しいくらい。

NOPEは現代版西部劇ともいえる傑作であって、超自然的な力をコントロールできるという人間の驕りや、有色人種差別をしていたアメリカの負の歴史を暗喩していたり、非常に含蓄のある作品となっている

対して今作はどうか

宇宙人がなんだか知らんけど子供を捕食して成長するみたい!めっちゃ怖いけどオレンジの炭疽病の菌で倒せた!わーい!

同時期に同ジャンルの傑作が放映されていたというのは、何という皮肉だろうか

この映画は何も残らない。というか最近のJホラーの有象無象の作品群は本当に印象に残らない、スカスカのスポンジを食べているような空虚な作品ばかりである。

今までお家芸であったジトジト気持ちの悪いホラーも、今では天才アリ・アスターのものだ。

日本のホラーには何もない。日本にもアリ・アスターの様な天才が現れるまで、このジャンルには期待が持てないのは非常に寂しい。

リアル感の無さ

NOPEと”それ”に差がついたのは何も含蓄の有無だけではない

とにかくリアルな緊張感がないところだ、NOPEでは主要キャラであっても途中で退場し、ともすれば主人公もラストまでどうなるかわからなかった

時折銃の乱射事件が起きるアメリカは、自由な国であると同時に危険と隣り合わせの国でもある。常に命が保障されているとは限らない、職も終身雇用制ではないし生活も安定しない。そんなヒリヒリとした側面を持ちながら生活しており、そんな部分が作品の色としても表出している様に思う

日本は銃乱射はおろか、生命に関わる事件に遭遇する確率は非常に低い。一度職に就けば解雇されにくいし、比較的生活も安定している。言ってしまえば平和ボケを極めたようなものだ

だから主人公やヒロインは死なないし、宇宙人は簡単に撃退できてハッピーエンド!

小学校は惨劇の場になってて何人も死んでるし、宇宙人自体いつ戻ってくるか知らないけれど、今までのように暮らすぜ!

という風になるのである。

人間は解決できる事態に対して緊張感や恐怖は抱かない、こうしたリアルさに欠けた緊張感のなさが恐怖をさらに少なくした。

総評

日本という国は経済が衰退すると同時に、エンターテイメントの世界でも後塵を拝してしまっている。

過去の栄光に縋ってしまうのは人間の性だ、かつて世界で尊敬された日本人映画監督ももうこの世にいない。

エンターテイメントとしての一時代を築いたジャパニーズホラーも、今や過去のモノ。その一時代を築いた作品の監督が作った作品がそれを証明してしまっているのは、なんという皮肉だろうか。

この映画こそが、日本の現在地を示していることを胸に刻まなくてはいけない

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