リトルマーメイドなどでお馴染みのアンデルセン童話「人魚姫」を原作としたミュージカル映画
1980年代のポーランドを舞台にした、怪しく・グロく・エロく・ビターな作品です。
あらすじ
はじめての舞台、はじめての恋、はじめて吸うタバコ――
「はじめて」の先にある、私たちの運命。
人魚の姉妹が海からあがってくる。辿りついたのは80年代風のワルシャワのナイトクラブ。
ふたりはワイルドな美少女。セクシーで生きるのに貪欲だ。一夜にしてスターになるが、ひとりがハンサムなベース・プレイヤーに恋してしまう。
たちまちふたりの関係がぎくしゃくしはじめ、やがて限界に達し、残虐で血生ぐさい行為へとふたりを駆り立てる。
(https://filmarks.com/movies/72656より引用)
オススメポイント
ジャンルはホラーではあるが、恐怖要素は人魚化した際の姉妹の牙が若干怖いぐらい
ただ姉妹が全編にわたって裸であるのと、若干のグロテスクな描写があるので理解のある人との試聴をオススメする。
ミュージカルやスプラッタ描写に抵抗のない人におすすめの作品だ。
UMAMIX
原作の人魚姫からして、愛した王子とは添い遂げることができず海の泡と消えてしまうという童話の中では割とほろ苦い作品
そんなほろ苦さを更に焦がすため、今作では伝説上の生物をMIXしている
今作に登場するのは半人半魚の人魚と、西洋の伝説上の生物“セイレーン”のMIX
セイレーンは女性の顔を持ち、体は鳥という生物
美しい歌声をしており、その歌声で航海中の船乗りを誘惑し食べてしまうという逸話が残っている。
主人公である人魚の姉妹・ゴールデンとシルバーは美しい歌声を持っており、その歌声と美貌で男を誘惑し割と力で食い殺す
この人肉食という習性が物語を更にビターにしていくのだ。
衣装の妙
人魚の様な半魚人と人間の恋愛を描く作品というとギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が思い浮かぶ
かの作品も半魚人のディティールの細かさやデザインが素晴らしかった。
この『ゆれる人魚』も人魚(割と全裸なことが多いけど)やナイトクラブの面々が着る衣装がオシャレなのだ
人魚の姉妹は水をかけられると足が魚のヒレとなるという設定で、ヒレのヌメッた質感が非常に生々しい。
人魚ということでほぼ全編にわたって上半身裸の状態であるが、艶かしさはそこまで感じず、どこか健康的なエロスを感じる。
フィーチャーされがちなのは確かに姉妹の人魚化した姿であるが、
バンドメンバーの衣装もスパンコールをあしらった軍服など、社会主義下のポーランドという馴染みのない世界の印象を凝縮した様な怪しくもオシャレなイキフンだ。
ゆれる人魚を考察
人魚というの半分人間であったとしても足は魚、主戦場は海で陸の上は専門外だ
それを「こいつらを見世物にすれば稼ぎになる」という人間側のエゴで、姉妹2人はナイトクラブで働くことになる
生活は共同で行っているが、基本彼女たちに賃金は払われていない様子であった
見方を変えれば彼女らは移民や貧困に喘ぐ女性のメタファーなのではないか、彼女らは多数派に不当に身体的に精神的にも搾取されていく
姉妹は次第に市民権を主張していく、賃金を求め、身分違いの恋だってする
しかし彼女らの一族が持つ異文化中の異文化である人肉食という文化は受け入れられることはなく、一度撲殺されてしまう
人肉食は主張としては極端であるが、ここからは宗教やジェンダーなど多様性を受け入れられない現代社会を皮肉っている様にも受け取れる
最終的に童話に沿ってシルバーは海の泡となって消えてしまい、ゴールデンはその男の喉笛を食いちぎって海へと消えていった
シルバーは決して弱くはなかったが、「女性は男の三歩後ろをついてくれば良い」といった昭和の価値観に飲まれてしまった
自分のために魚の足を人間の足と入れ替える手術までする、男性が思い描く都合の良い女性像、それがシルバーだった
一方ゴールデンはその古い価値観に警鐘を鳴らし行動を起こす女性であった
果たして、その行動は世間に受け入れられることはなくゴールデンは元居た海に帰り、世間は古い価値観のまま、何も変わらず動き出していくのであった
上記はあくまでも筆者の感想。
アンデルセン童話に沿った内容ではあるが、搾取される女性と多様化する人間を受け入れられない世間を皮肉った作品である様に思う。
総評
1837年というはるか昔に執筆された童話を原題風にリメイクし、怪しくホラーでビターな作風にアレンジした佳作。
挟み込まれる歌も印象的なものが多く、決して明るくはないが印象に深く残るミュージカル映画であると思う。あとOPが可愛い。
作中でシルバーと足を交換した女性は幸せになれたのだろうか?何だかそっちのスピンオフも見てみたい気がする。
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