人間誰しもが少しずつ歳をとり、死に近づいていくのが自然の理。
しかしその場にいるだけで恐ろしいスピードで老化していくとしたら?というSFホラーだ
※結末に関するネタバレがあります、ご注意ください
あらすじ
人里離れた美しいビーチに、旅行で訪れた複数の家族。それぞれ楽しいひと時を過ごしていたが、6歳の少年が突如姿を消す。
息子を懸命に探す母親だったが、彼女の前に青年へと急成長を遂げた息子が現れる。
その場所では時間が恐ろしいほどのスピードで流れ、彼らは皆急速に年老いていたのだった。
老いという恐怖
どんな金持ちでも権力者でも、時間の経過による老いはつきまとう。
秦の始皇帝は日本を不老不死の国”蓬莱”だと信じ、不老不死の薬を探せと部下に命じた木簡が発見されているし、不老不死の薬として水銀を服用していたという逸話もある
世界三大美人に数えられる楊貴妃も、その美貌を保つため毎朝母乳を飲んでいたし、
16世紀~17世紀のハンガリーに君臨した「血の伯爵夫人」エリザベート・バートリーは若さを求め処女の生き血を愛飲し、生き血の風呂に入っていたという。
このように、時の権力者はその栄華の永続性を夢見て、死をも克服しようと様々な秘術や怪しげな薬品に手を出していった。
しかし、その全員が死んだ。
スピードの違いはあるにしろ、老いによって植物も生物も平等に死に歩みよっていく。生物は根源的に死を恐れているため、ホラーやスプラッタではその残酷な死に様にフォーカスが当たることが多いが、今作はその過程である”老い”のスピードに焦点を絞った世にも珍しい作品といえるだろう。
ホラー映画として
老いるスピードを恐怖の対象として描いているということは、具体的なお化けやモンスターは出てこないということ
貞子やジェイソンなど、映画のアイコン的なキャラクターは存在しない。
それでもホラー映画として成立するのは監督であるナイト・シャラマンの力量に他ならないだろう。
徐々に認知症が進み不気味な雰囲気を醸し出す医師
自撮り大好き、若さがすべてだった女性の悲痛な最期-
幽霊や化け物に頼らずとも、心理的・物理的恐怖をあおることができる
アイコニックなキャラクター頼みで才能が枯渇し始めた今のジャパニーズホラーに不足していることがすべて詰まった作品だともいえる
家族愛
今作はホラー映画という側面を持つ一方、もう一つ家族愛というテーマがある
離婚直前という家族離散の危機、その最中に訪れたビーチでの”老い”という脅威に対して家族は自然と一丸となって立ち向かうことになった
お互い心の底から憎しみ合っていなければ、いずれは時間の経過に伴って関係は修復される。それが家族ならば尚更だ
カッパ一家は脅威に立ち向かうことで、一晩のうちに老いという恐怖を超越したのだった
伏線
今作も若干ではあるが伏線が張られている、筆者が気付いたものを列挙していこう
ウェルカムドリンク
宿泊者たちに合わせて作られたといわれるウェルカムドリンク
この宿泊者たちに合わせて作られたというところが伏線だった。このドリンクは被験者である宿泊者に合わせて作られた試薬。
時間の進むスピードが速いビーチで過ごすことにより、試薬が被験者の持病に対しどんな効果があるのかが一晩で判明するのだった
イドリブからの手紙
ホテルで仲良くなった少年イドリブはビーチで何が起こっているかは分からなかったが、ビーチに行った者が2度と戻ってこないこと、そして叔父が何かを企てていることは知っていた。
普段はただの宿泊者であったことから深入りはしなかったが、仲良くなったトレントの身を案じ暗号という形でヒントを残した。結果としてこの「おじさんはサンゴが嫌い」というヒントがマドックスとトレントをビーチから救うこととなる。
遠くの崖に光るモノ
ビーチから見える崖の上に光っていたもの、こちらも終盤に明かされる伏線の一つ。
何かを知らせるようにピカピカと光っていたのは、製薬会社がビーチを監視するためのレンズの反射だった。なぜかここだけ人によるアナログな監視方法だったため、マドックスとトレントの脱出を許すこととなった。
総評
昨今印象的なモンスターやお化けがアイコンとして消費つくされ、ホラーファンとしては何か物足りないものを感じていた。そんな中で”老い”という生物として逃れられない事象にフォーカスを絞った珍しい作品だ。
同じようなテーマで近年公開された作品に『レリック-遺物-』が挙げられるが、全体的に抽象的なストーリーだったため今作に比べ満足感は低かった。
印象的なキャラクターなくして分かりやすく怖い、やはり新進気鋭の監督との力量の差を感じた。
コメント