ルパン三世一味に焦点を当てたスピンオフ作品『LUPIN THE IIIRD』の第一作
『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』のように大衆に迎合した作品でなくビターな世界観が魅力的な作品だ
※記事後半本編のネタバレがあります、ご注意ください
作品名(評価):LUPIN THE IIIRD次元大介の墓標(S)
制作(公開年):日本(2014)
監督:小池健
主演:栗田貫一、小林清志 他
あらすじ
秘宝「リトルコメット」を狙い東ドロアに潜入したルパン三世と次元大介。
東ドロアは犯罪率が低い世界屈指の平和な国。だが自国の歌手クイーン・マルタが、隣国・西ドロアで暗殺され、この事件を契機に、西ドロアと一触即発の緊張状態が続いていた。
ルパン達は「リトルコメット」を盗み出すが、何故か行く先々に警察が待ち構えている。かいくぐり逃走するルパンと次元だったが、どこからも死角のはずのビル影から飛び出した瞬間、一発の銃弾が次元を襲う!
命からがら逃げだし二人は墓地を訪れる。そこには『次元大介』の名が記された墓が!
次元は噂を耳にしていた。ターゲットの墓を事前に用意する殺し屋・ヤエル奥崎のことを。その男に墓を用意され生き延びた者はいないという…
峰不二子という女の系譜
毎年夏になると放送されていたルパン三世のテレビスペシャルを楽しみにしていた方も多いかもしれないが、よくよく考えると毎年過激さが無くなっていたように思えないだろうか。
それというのも年々不二子の乳首が出なくなっていったからだ、ルパン三世のハードでアダルトな世界観は、どの年代も楽しむことのできるように不二子の乳首と共にテレビから消えていった
そんな中、彗星のように現れたのがシリーズ初の深夜アニメとして放送された『LUPIN the Third -峰不二子という女-』だった、この作品は深夜アニメという特性を活かし原作版をリスペクトした前衛的かつエロティシズムに溢れたアダルトテイストの作風となっており、原作ファンからも好評を博した
そのダークでアダルトテイストな雰囲気をそのままに、1996年ぶりの劇場用アニメとして制作されたのが今作『次元大介の墓標』だ
もちろん乳首も出るし結構な出血シーンもある、ルパン三世シリーズで初のPG12のレイティングが適用されたことからも制作陣の大人向けに作ったぞ!という気概が感じられる
静かにアツく
そんな大人な雰囲気が楽しめる今作は、アツいシーンに溢れている
前後編に分割された内、前半部分は敵であるヤエル奥崎の強さに圧倒されるシーンが多く、次元もルパンも被弾したりでボロボロにされてしまう
しかしコレもあくまで後半のカタルシスのための布石なのだ
特に今作は次元大介がS&W M27 .357マグナムという44口径で堅牢さが売りの重いリボルバーを使うのに対し、ヤエル岡崎は極限まで軽量化した22口径の単発式拳銃を使用して戦うという
”パワーVSスピード”と”技量VS技術”のぶつかり合いとなっている点もストーリーの温度を上げている
手負いで不利な利き手以外の決闘、依頼主を殺された因縁の相手との再戦、相対する属性の激突…様々な要素が後半のタイマン勝負に収束していくのだ、こんなのアツくならないわけがない!
それもロボットアニメだとかスポ根もののようなテンションの上がるアツさではなく、全身が自然と粟立つような感情を味わうことが出来る
ハードボイルド
ルパンや不二子など次元を取り巻く人物とのウィットに富んだやり取りにも注目だ
特に今作最大の敵キャラであるヤエル岡崎との最終決戦での次元は一挙手一投足、全てがかっこいい
強敵を目の前にトレードマークであるくしゃくしゃのポールモールをふかし、あくまで早打ち勝負で決着を着けようとする姿勢
そして決着後の決め台詞
「お前がどれだけ軽い銃を使おうが知ったこっちゃないが…
俺に言わせりゃロマンに欠けるな」
ちょっとカッコよすぎる。
2014年の作品のため、2021年に勇退した小林清志の比較的ハリのある声でセリフが聞けるのも良い
三枚目のルパンと違い、常に冷静沈着でクールな次元大介はこのLUPIN THE IIIRDシリーズのために生まれてきたようなキャラクターといっても過言ではないかもしれない。
まさにハードボイルドを体現した主人公そのものだ
考察
そういうあなたは何故この仕事を?の真意
東ドロアの歌姫クイーン=マルタは、なぜ危険を冒してまでこの国で歌うのかと次元に問われ、質問を質問で返した
そういうあなたは、何故この仕事を?
これはどういった意味があったのだろうか?
あなたが社会人であるなら「あなたは何故この仕事を?」と問われて何と答えるだろうか?
お金のため?お客さんのため?自分のため…?様々な理由が挙げられるだろう。しかしその根底にあるのは、その仕事が自分にできる可能性を感じたからなのではないだろうか
クマを襲うウサギが居ないように、自分には到底出来ないような仕事を選択するような人はいないだろう
そしてその可能性は、その仕事に就いた人にとっては当たり前の感覚になってしまう
つまりクイーン=マルタはこの当たり前の質問を投げかけることによって、
自分が歌うのはうまく歌えるからであり、危険を冒してでも自分の歌が東西ドロアに平和をもたらす可能性があると当然に信じている。
ということを次元に伝えたかったのではないだろうか?
この言葉を聞いた次元はカラミティファイルの内容をリークし、クイーン=マルタの信じた可能性を現実のものにしたのだった。
総評
モンキーパンチが描いた原作のダークでアダルトな世界観に立ち戻り、今まで主人公ルパンの相棒に留まってきた希代の名キャラクターにスポットを当てた一本
こういうシーンってかっこいいよね!渋いよね!という要素をふんだんに取り入れ、51分という短い時間い凝縮しているが視聴後の満足感は下手な長編映画よりも高い
次元大介の声優を50年間務め、2021年に勇退した小林清志の引退メッセージを読んでからだと尚更味わい深い。
次元はJAZZの雰囲気に似ている
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