「岳」の石塚真一原作、マンガ大賞や小学館漫画賞など入賞歴のある漫画をアニメ化した一本。
「CGがヒドい」と作品の魅力とはちょっと違った方向で話題になってしまった悲しい作品でもあったが、そんな些末なことは気にならないほどの映画である。
作品名(評価):BLUE GIANT(A)
制作(公開年):日本(2023)
監督:立川譲
主演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音 他
あらすじ
ジャズに魅了され上京した主人公・宮本大
世界一のジャズプレーヤーになる夢を叶えるため飛び込んだジャズバーで凄腕のピアニスト・雪祈と出会う。雪祈を口説き落とし、ドラムとして同郷の友人玉田をドラムスとして加入させ、ジャズバンド「JASS」を結成した3人
大とは別の方向から高みを目指す雪祈は、ある目標を立てる
それは名門ジャズクラブ「SO BLUE」のステージに10代の内に立つことだった―
味噌
漫画では珍しいジャズをテーマとする作品で、紙面から音が伝わってくるような画力(えぢから)が魅力的であったが、アニメ化する事で遂に完全体を白日の元に晒した
しかし冒頭でも紹介した通り、若干味噌のついた作品となってしまったのは確かであった
山田裕貴や間宮祥太朗をはじめとした実力派の演者陣に加え、音楽は日本ジャズ界のトップリーダーである上原ひろみが手掛けている磐石の体制!
そして劇場版のこの予告!
この感じで作画までいいの!?もう期待しかないじゃん!!と。
そしていざ封切りとなると、皆が口をそろえて論評する
「CGがねぇ…」
PS2
確かに今作のCGは褒められたものではない
ゲームでいえばPS2の初期(ドラゴンボールZやサイレントヒル3とかあの辺り)を彷彿とさせるクオリティのCGが結構な頻度で挿入されるし、時間も長い。今作一の盛り上がりを見せるSO BLUEのステージでも容赦なくそのクオリティのCGを使った演奏シーンが使用されているため、より目立ってしまっている
またそのCGの動きも滑らかではあるものの、どこか偽物感は否めない。例えるなら博物館に置いてあるスイッチを押したら同じ動きを繰り返すようなマネキンのような感じなのである
博物館の動くマネキンというと、2009年のM-1で笑い飯が披露した「奈良県立歴史民俗博物館」というネタを思い出す方がいるかもしれない
実はこのネタに登場する奈良県立歴史民俗博物館は架空の博物館であり、名称が近い「奈良県立民俗博物館」は存在するものの、この博物館には動くマネキンの展示は存在しない。
フル3DCGのアニメは1996年に公開された『トイ・ストーリー』が世界初の長編作品であり、今見れば多少の粗はあるものの既に造形も動きも現状に近いクオリティである
ではなぜ2023年に公開された今作がPS2のクオリティのCGしか使用できなかったのか?
答えは簡単、予算に限りがあるからである。
比重
トイ・ストーリーの製作費は約30,000,000ドル、アメリカ公開当時のドル円レートでも約300億円の規模で一つの作品が作られていた。それに比べ日本の一漫画作品のアニメ映画化にどれほどの製作費がかけられるだろうか?
日本ではアニメ映画を一本作成するのに平均2~3億円の製作費がかかると言われており、作画枚数や宣伝費が多ければさらに金額は上がってくるものの、トイ・ストーリーと比較すると100分の1の金額で制作しなければならない計算となるのだ。
今作は予告でもあったヌルヌル動く気合の入った大のソロ演奏シーンがある、音楽も世界が認めたプロに依頼してある、声優には今人気の俳優をブッキングした
こうした情報からは制作側の、著名人にもファンの多い原作に泥を塗る訳にはいかない、いいものを作りたいという気持ちがにじみ出ているように感じるし、実際にBLUEGIGANTは素晴らしい作品だった
そうした限られた予算の中でいいものを作りたい、という比重が偏った結果として生まれたのがライブシーンに挿入されるCGなのであって、そのおかげで大迫力な音楽と作画を我々は享受することができたのだ。
そう考えると原作好きの人間からしても、あのCGは感謝こそすれクオリティを否定することはできないのではないだろうか。
総評
「紙面から音が聞こえてくる」と形容された漫画作品を見事にスクリーンに落とし込んだ一本。
迫力のある音楽はもちろん気合の入った作画も楽しめる一方で、その努力の結果として生み出されたCGにばかり注目の集まってしまった。しかしCGは決して手抜きや雑さを言われる筋合いはなく、限られたバジェットの中での最適解だったのである。
原作の中でも人気の高いエピソードを2時間の尺にびっちりと収めた、今年始まって以来最高のアニメ映画だ。
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