プラットフォーム 現代社会を痛烈風刺したSFホラー

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資本主義は加熱しつつある

富める者はますます富み、持たざる者はより失われていく、そんな現代社会を痛烈風刺したSFホラーが『プラットフォーム』だ

作品名(評価):プラットフォーム(A+)

制作(公開年):スペイン(2019)

監督:ガルダー・ガステル=ウルティア

主演:イバン・マサゲ、アレクサンドラ・マサンカイ他

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あらすじ

ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。

部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が”プラットフォーム”と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかないのだ。

同じ階層にいた、この建物のベテランの老人・トリマカシからここでのルールを聞かされる…

1ヶ月後、ゴレンが目を覚ますと、そこは「171」階層で、ベッドに縛り付けられて身動きが取れなくなっていた!果たして、彼は生きてここから出られるのか!?

https://klockworx-v.com/platform/(公式サイトより)

システム

今作で主人公が収監されることになる施設は334層からなる収容所。

2組のベッドと水道やトイレしかついていない簡素な部屋は、真ん中に天井から床までをブチ抜く穴があり、一定時間に一度プラットフォームと呼ばれるエレベーターが沢山のごちそうを載せて降りてくる。

ただしそれは上の0階層から降りてくる、つまり階層が上ならば選びたい放題だが、下になれば下になるほど食べ物は無くなってゆく。そういう”システム”になっている。

このシステムはかなりデフォルメされているが、我々が暮らす世界の経済・政治的システムに非常に似通っている。

我々はこのシステムを”資本主義”と呼んでいる

資本主義

この資本主義とはどういったシステムなのだろうか?

資本主義とは?

国政によってよりも営利目的の個人的所有者たちによって貿易と産業が制御(コントロール)されている、経済的・政治的システム

構造的には、資本(としての生産手段)を私有する資本家が、労働者から労働力を買い、それを上回る価値のある商品を生産し、利潤を得ている

(Wikipediaより)

この資本主義のシステム下において、まず人間は2つに大別される。上記の通り資本家と労働者だ。

資本家は富める者、システムを書き換えることが出来る権力すら持つ者もいる。対して労働者は持たざる者だ、資本家によって労働力を搾取されシステムに翻弄される。

ではこの資本家階級と労働者階級はずっと変わらないままののだろうか?

資本主義は才能や努力することで富を築くことが出来るシステムになっている。また、才能に乏しく努力をすることが難しい者も、社会保障や累進税制によって富の再分配が行われできる限りの平等性が担保されている仕組みとなっている。

しかしこれは建前だ

加熱する資本主義下において資本家はますます労働者から労働力を安く買いたたき富を蓄える、労働者は限られたパイを奪い合い、富の格差はどんどん広がっているのだ。富の再分配など機能していない。

その加熱した資本主義の現状を模したのが、今作「プラットフォーム」だ

考察

作中に登場する人物、モノは現実世界にあるものを暗に示している。以下はその考察をしていくゾ

階層=階級

収容所の階層はそのものズバリ階級を表す。

上に居ればいるほど資本家階級に近い労働者であり、多くの食べ物にありつくことが出来る

下の階層にはツバを吐いたり、降りていくこともできるが上の階層には何もすることが出来ない。なぜなら立場が上であるから。

現実世界でも下請けの職人は元請けの業者に逆らうことはできないし、国家に国民がたてつくことはできない。なぜなら立場が上であるから。

一カ月=人の一生

今作で入所者は低い階層で全く食事がとれなかったとしても同居人を食べたり、転落してきた上の階層の入所者を食べてでも生き残らなくてはいけない。一カ月が過ぎ神経ガスで眠らせられ、別の階層に移動することが出来るまでだ。

この一か月間というシークエンスは、現実世界でいう人の一生に当たる。

人は生まれを選ぶことが出来ない、貧しい家庭に生まれれば貧しい生活を送ることになるし、紛争地域に生まれれば人を殺して生きていくことにもなるかもしれない

作中でも主人公は階層ごとに平和な一カ月を過ごしてみたり、地獄の様な一カ月を過ごすことになったりするが、これは各階級に縛られた人の一生を追体験している。そしてひと月ごとに神経ガスでの眠り=その階層に縛られた人の死を経験し、収容所の中で輪廻転生するのだ。

つまり収容所を出て許可証をもらう、というのは輪廻転生から解脱することを意味する

同居人=自分以外の全員

収容所の一カ月は人の一生、階層が生まれ持った階級だとするならば、同居人はこの世界に住む自分以外の全員を意味する。

同じ階級に生きる他者は時として生き抜くため敵同士にもなりうるし、理想を語り合う仲間にもなりうる。階層が上ほど食べるのに困らないため自分と他者の関係性は良好になり、階層が下ほど生き残るために殺し合いが起きたりするのだ。

作中で主人公・ゴレンとトリマカシという老人は48階層では仲良くやっていたが、171階層ではトリマカシがゴレンをベッドに縛り付け対立を極めてしまった

現実世界も同様だ「金持ち喧嘩せず」ということわざが示すように余裕があるものは争わず、資源の乏しい地域では刃傷沙汰が絶えない

階級は自分と他者の付き合い方までもを変えてしまう

一つだけ持ち込めるアイテム=ギフト

収容所に外の世界から持ち込むことのできるものが個々人に許されている、これは生まれながらにして持った才能を表している。

トリマカシのように包丁や武器を持ったものは武力という才能を持っていることになり、ゴレンは識字能力や知識量の才能を持っていることになる

その使い方は他者と仲良くなるのに使うもよし、上の階へと昇るために使うもよし、他者を傷つけるために使うのも自由だ

ただ作中でも述べられた通り、多くの人間が自分の身を守るため・相手を傷つけるために武器を持ち込んでいることが多いという。これは人間の隠された利己主義を白日の下にさらした設定の一つであると思う。

ミハル=疫病・天災

作中、自分の子どもを探すため殺戮を繰り返しながら階層を下っていくミハルという女性キャラクターが登場する。

このミハルというキャラクターは疫病や天災を意味しているように思う

疫病や天災は有無を言わさず人類を殺していく、そして貧しい者へ階級の低い者へと被害は伝染していく。決して上の階層へは被害は広がらない。

人類史上、疫病や天災は資本家階級も労働者階級の区別もなく感染し被害を広げてきた。その疫病によって資本家階級が没落し、富の再分配が行われてきた部分もある。だからミハルが伝染病や天災のメタファーなのだとしたら、上の階層へも被害を広げていないとおかしいように思える。

しかし昨今の新型コロナウイルスの動向を見ていると、現代ではどうも違うらしい。

資本家階級はたとえ疫病に感染したとしても最上級の医療措置と薬やワクチンが提供されるのだ、労働者階級はそうはいかない。現代において伝染病などの疫病の被害は階層によってダメージが異なる

上の階層であればあるほどミハルの脅威は届かないのである

伝言=新たなシステムの構築

資本家階級は収容所のシステムを構築した張本人である、そして労働者はそのシステムの中で輪廻転生を繰り返す。これがずっと続くのであれば、資本家階級と労働者階級は決して交わらない。

どういった生活をしているのか?どういったことが困っているのか?という意見は決してボトムアップされないし、システムは一向に変わらない

主人公たちはこの資本主義システムを壊そうと、各階層が必要な分だけ食べ物を取り分け配分する社会主義システムを構築しようとした。しかし社会主義システムは全員が平等であり全員が善意を持った状態でないと成立させることは難しく、頓挫することとなる

その中で見つけたのはある一人の子どもであった、ラストシーンで主人公は自分が最下層という地獄に落ちる代わりにその子供を資本家階級への伝言として残していった

資本主義の様々な側面と社会主義を実践した主人公が命に代えて残した伝言は

「資本主義社会では最下層に子どもがいる、子どもを助けるために新たな社会システムを構築してくれ」というものだったのではないのだろうか

総評

謎の収容施設での主人公の奮闘を背景に、現代社会のシステムへの警鐘を鳴らした一本

うがった見方をしなければシチュエーションスリラーとしても楽しめるのが嬉しい作品だ。

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