ジャパニメーションに多大な影響を受けた新進気鋭の女性監督・ソン・シンインの長編アニメ初監督作品です!
あらすじ
アメリカで暮らすチーの元に、台湾の祖母が亡くなったと連絡が入る。
久しぶりに帰ってきた故郷、台北郊外の幸福路は記憶とはずいぶん違っている。運河は整備され、遠くには高層ビルが立ち並ぶ。同級生に出会っても、相手はチーのことが分からない。
自分はそんなに変わってしまったのか――。チーは自分の記憶をたどりはじめる。
空想好きだった幼い頃は、毎日が冒険だった。金髪に青い目のチャン・ベティと親友になってからの日々、両親の期待を背負っての受験勉強。
学生運動に明け暮れ、大学卒業後は記者として忙殺される毎日を送った。そして友との別れ。現実に疲れたチーは、従兄のウェンを頼ってアメリカに渡る。そこで出会ったトニーと結婚し、両親にもアメリカで幸せになることを誓ったけれど……。
今、夫から離れて幸福路のいるチーは、昔と同じように祖母の助けを必要としている。実は人生の大きな岐路に立っていたチーは、幸福路である決断をする――。
~公式サイトより~
台湾のアニメ事情
台湾といえばお隣の国、三時間あれば旅行に行けてしまうという非常に近い外国の一つです。アジア諸国にジャパニメーションが浸透している例にもれず、台湾も『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』が放映され人気を博しています。
ソン監督もそんなジャパニメーションに魅せられた人物の一人で、『キャンディキャンディ』にドはまりした幼少期を過ごしたそうです。そうしたバックボーンを持ったソン監督の自叙伝的作品がこの『幸福路のチー』です。
なんでも台湾国内のアニメ制作ノウハウはほとんど0に等しく、監督自身がスタジオを創設し今作が完成するまでに4年の歳月がかけられたそうです。
もちろんディズニーアニメのようにヌルヌル動きませんし、劇場作品にしてはなんとなくぎこちない動作が多いなという印象は受けましたが、0からスタートした世界中に感動を与える作品に動画枚数は全く関係ありません。
ジャパニメーションからの影響
作中印象的なシーンに『ガッチャマン』のテーマソングを歌う場面があることからも分かる通り、ジャパニメーションの影響を色濃く受けている作品であると言えます。
その中でも、幼少期のチーが夢と現実がクロスするような妄想をするシーンに関しては、デフォルメの具合とダイナミックな動き方や水の表現を見るに、森見登美彦作品のアニメ化でお馴染みの湯浅政明の影響を受けていると感じました。
もちろんそうした影響を如実に受けていることは十分に分かるのですが、ソン監督が目指したのは”台湾”のアニメという事で、キャラクターデザインや幸福路の風景などはオリジナリティあふれる作品になっています。
そして何より1980年代の過去の台湾と現在を行き来するストーリーは唯一無二、そして世界中で共感を集めるグローバルな内容にもなっているのです。
この映画で号泣できる人とは
ストーリー展開としては、たまにシリアスになりつつも全体的にほのぼのしているので『この世界の片隅で』を彷彿とさせるところがありましたが、あそこまでの急転直下な展開はありません。
それなのにもかかわらず、私は劇場で号泣してしまいました。一体なにがそこまで刺さったのでしょうか?
私は留学経験もありませんし、国際どころか結婚もしていません、ましてや妊娠も経験していないですし第一男です。今作の主人公”チー”とは何一つ被っている属性は無いんです。
ただ一点ニアピンしているのは、学生時代に親元を離れ、特に何物にもなれず地元に帰ってぬくぬく生活させてもらっているという点です。恐らく私はココが心の琴線に触れて止めどなく涙が出てしまったんだと思います。
何も知らずにただ楽しかった幼少期の思い出、それと対比して何でもない大人になってしまった現状をスクリーンを通して眼前にまざまざと見せつけられたことが一因であるかもしれません。
自分が小さい頃思い描いていた理想の大人になれた人は世界でもほんの一握り、そうなれなかった人の方が大多数で、その”何物にもなれなかった”という感覚はきっと世界共通なんだと思います、だからこそ台湾のみならず世界で共感を呼んでいるのでしょう。
ですから何物にもなれないまま大人になってしまったと感じている方には凄く刺さる内容であると思いますし、おすすめできます。
総評
台湾の辿ってきた歴史と人々の息遣いを主人公チーを軸に追体験できるというのも新鮮で面白いのですが、外国の話にもかかわらずとても身近で、そして心にクる内容になっています。
大人が見て泣けるっていうのはすみっコぐらしのような作品ではなく、今作のような作品にこそふさわしいと思います。
コメント