裏社会・戦争・人種差別への取材、様々な経験に裏打ちされた強烈な映画で人々を魅了したサミュエル・フラー監督の傑作!
あらすじ
新聞記者ジョニー・バレットは、精神病院で起こった殺人事件を解明することで、手っ取り早くピューリツァー賞を受賞しようと野心を燃やしている。
彼は嫌がる恋人キャシーに無理矢理妹のふりをさせ、近親相姦的欲望を抱く性倒錯者を装って院内に潜入し、殺人を目撃した三人の患者に接近して下手人の正体を暴こうとするが―
生々しさ
なんと生々しい映画だろう。
それは精神病院の内部を写実に表現した映像はもちろん、登場する印象的な精神病患者各々の狂気の根源となった事象にもいえる。
根源となったのは”朝鮮戦争・レッドパージ・KKK・原爆研究”
その全てがアメリカが第二次世界大戦終盤から今作が公開された1960年代までに犯してきた行為だ。
患者たちはそれら”臭いもの”に蓋をしようと狂気に足を踏み入れた、そして挿入される印象的な16mmフィルムで撮影されたカラーの映像は、患者が”臭いもの”に正面から向き合った事を示唆しており、カラー映像を挟むと患者たちは一時的に正気へと戻る。
その実カラーフィルムの映像さえも歪んでおり、患者たちは結局のところ狂気から完全には抜け出すことが出来ないのだ。
サミュエル・フラーはこの映画を通してアメリカの暗部を精神病院として怒りをもって描き、その中でひたすらもがいた主人公に自己投影したのかもしれない。
しかしこの映画で一番生々しいのは一人の精悍な男性が徐々に狂っていく過程とその狂気が頂点に達した時の表現だ。
雨
映画史には印象的な”雨”のシーンが多く存在する。
『雨に唄えば』のミュージカルシーン、『ショーシャンクの空』の脱獄シーン…
雨というとマイナスなイメージが着きがちではあるが、意外と主人公が前向きに生きる様を表現する舞台装置にもなるのだ。
しかし、今作の雨は全く違う。
主人公の狂気を表現した精神病院に降りしきる激しい雷雨は前向きとは対極、おどろおどろしく孤独。偽の遠近法を用いてどこまでも続いていくように感じさせる廊下の効果とも相まって、出口のない恐怖と狂気が画面越しにでもビリビリと伝わってくる。
狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。
主人公の咆哮は人間としての理性を全て吐き出したものだったのかもしれない。
総評
『シャッターアイランド』に多大な影響を与えたという今作。評判に違わず生々しく、そして狂気に満ち満ちた作品だった。
低予算映画ということであるが、熱海の秘宝館のようなちゃっちい合成映像が辛うじてその低予算での奮闘を感じさせるのみで、なぜか安っぽくならない映像の圧がある。
サミュエル・フラー監督作品を見るのは初めてだったが、その力強さと思いを感じることが出来たような気がする。
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