イエスタデイ 非凡であることへのプレッシャー

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S級作品
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インド系イギリス人の俺がビートルズが存在しない世界へ行ってビートルズの名曲で無双する!というブリティッシュ版なろう作品。

しかしそこにはスターであり続けることへの苦悩が込められていた。

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あらすじ

“イエスタデイ<昨日>”まで、地球上の誰もがザ・ビートルズを知っていた。

しかし今日、彼らの名曲を覚えているのは世界で一人、ジャックだけ・・・ ジャックは突然、信じられない不思議な世界に身を置くこととなってしまった!

ジャックは、イギリスの小さな海辺の町に住む、悩めるシンガーソングライター。 幼なじみで親友のエリーから献身的に支えられているもののまったく売れず、音楽で有名になりたいという夢に限界を感じていた。

そんな時、世界規模で瞬間的な停電が起こり、彼は交通事故に遭う。

昏睡状態から目を覚ますと、この世には史上最も有名なバンド、ザ・ビートルズが存在していなかったことになっていることに気づくが・・・。

なろうとの違い

“小説家になろう”というサイトで一大カテゴリとなっている異世界転生もの。

現実世界で不遇の時を過ごした者が、不慮の事故などひょんなことから異世界に転生

転生した事で強大な力を手にして異世界で無双する。コレがこのカテゴリーの大まかな概要だ。

日々報われない感情を持って過ごすオタクが、なんの努力も苦労もせず、痛快な活躍でヒーローになるという何とも歪んだ作品形態といえるだろう。

この『イエスタデイ』も概すれば異世界転生ものに該当するかもしれない。

しかし、この作品の主人公は日々葛藤を抱え、ビートルズの存在した世界と、しない世界のギャップに苦しんでいた。

小説家になろうでは語られることのない、非凡であり続ける事への苦悩を描いていたのである。

非凡であり続けること

漫画家でも歌手でも食べるには作品を当て続けなくてはいけない、

さもなければ世の中から忘れられ一発屋としてたまに思い出されるだけの存在になってしまう。

そして二発目以降を当てた才能たちは“当て続ける”という新たな壁にぶつかる訳だ、世間の時流に乗っていながら古臭くなく斬新な_

一体何人がこれに耐えられるのだろうか?

他人の創作物を自らの作品として発表することへの良心の呵責、剥離してゆく自分自身への評価と世間への自分への評価、もはや平民と貴族の身分違いの恋となってしまった元マネージャーとの恋。

一体誰がこれに耐えられるのだろうか?

いつかイギリス国民の誇りであるビートルズのメンバーが自分を見つけて「盗作だ!そいつは偽物だ!」と糾弾される夢を見てうなされる日々が続く。

一体誰がこれに耐えられるだろうか?

それも、どうしようもなく自分が非凡だとわかり切ってしまっているインド系イギリス人に耐え切れるだろうか?

本来であれば一握りの人間にしか訪れない様な葛藤を追体験できるのが、今作の魅力の一つだ。

ダニー・ボイル

ダニー・ボイル監督作
  • 『トレイン・スポッティング』
  • 『28日後…』
  • 『スラムドッグ$ミリオネア』
  • 『127時間』
  • 『スティーブ・ジョブズ』
  • ロンドンオリンピック開会式プロデュース

ジャンキーからゾンビ、社会問題やオリンピックまで手がける、ぱっと見意味がわからない守備範囲を持つのが今作の監督ダニー・ボイルその人だ。

エミー賞やアカデミー賞など、クリエイター関係の名だたる賞を受賞する正真正銘の天才監督であることには間違いない。

今作でもビートルズの名曲に合わせてリズミカルに展開していくストーリーに、

気づけば一瞬も飽きることなく116分間が溶けている感覚に陥る。

しかしこれだけのヒットを飛べせばもちろんハードルも上がる、注目も集まる、動く金額も自身の作品によって生活を左右される人員の数もきっと桁違いのはず。

きっととてつもないプレッシャーを日々感じているに違いない。

非凡であり続けることに苦労する主人公に、監督は自身を重ねているのかもしれない。

もしくはダニー・ボイル自身が異世界転生してきた異世界人なのかもしれない。

IFストーリー

キャラクターゲームなどでよくあるIFストーリー

あの敵に勝てなかったら…?

恋愛成就した主人公のその後は…?

など、ファンが喜ぶ要素が詰まっているのがIFストーリーだ。

今作の設定は、オアシス・コカコーラ・タバコ・ハリー・ポッター、そしてビートルズが存在しないという“現実世界のIFストーリー”を描いている。

つまりこの作品の世界では、リアムとノエルは案外ニコニコして仲良くやっているかもしれないし、

J・K・ローリングは未だに貧しい暮らしをしているかもしれない

そんなたくさんのIFストーリーが偏在している世界なのだ。

その中で本作中、唯一描かれるIFストーリーは鳥肌が立つので是非注目してもらいたい。

主人公は有名になれたからこそ見えた景色もあったのだが、彼は有名にならなかったからこそ見えた景色もあったのだ。作中でもかなり印象の強いシーンである。

総評

公開当時、かわぐちかいじが同じアイデアで漫画を描いていた様な…と思い気になってはいたものの結局見れずにいた作品、結果として見てよかった。

音楽はもちろん全編ビートルズで最高だし、そんなにビートルズに詳しくなくても理解できる内容でメッセージ性も非常に強い、何より『Yesterday』ってタイトルが良い、ダブルミーニングになってるしかっこいい。

全体的に水準の高い部分でバランスの取れた作品であると思う。

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