最新作『ミッドサマー』が公開され話題を呼んでいるアリ・アスター監督の長編処女作
降霊術・悪魔信仰・オカルト…さまざまな要素が絡み合う考察しがいのあるストーリー展開となっていますよ!
あらすじ
ミニチュア模型アーティストのアニー・グラハムは、長年疎遠であった母エレンを亡くし、息子ピーターの監督不行き届きで娘のレイチェルも事故死してしまう。
心のバランスを崩したアニーはグループカウンセリングで出会ったジョーンに降霊の秘術を教えてもらいレイチェルと交信することになる。
果たして降霊術は成功する、しかしアニー一家は次々に起こる怪現象に日常をむしばまれていくことになる―
大まかな時系列 ※ネタバレ注意
- エレン、邪教を信仰する団体と関わりをもつ
同時に解離性同一障害(=多重人格障害)が進行
- エレン、ペイモンの供物になることを決意
同時に自らの孫二人をペイモンの依代に選ぶ
- エレン死去
葬式には邪教団体も参加していた
- アニー、グループカウンセリングへ通う
レイチェルはエレンに同調し、ペイモン復活の儀式を継続する
レイチェルの手引きで既にエレンの死体はアニー宅の屋根裏部屋へ
- ピーターの不注意によりレイチェル首ちょんぱ
路上にあった動物の死骸も恐らく邪教団体の仕業
- アニー、ジョーンに出会う
家族の絆は崩壊、自身も精神が不安定となるアニー
- 降霊術を教えてもらいレイチェルを降霊
ペイモンの魂(=レイチェル?)の準備が完了
- ジョーン、ピーターに本格的に呪いを掛ける
ペイモンの魂に一時的に憑依されたピーターの姿は
『ミッドサマー』のマークの最期の姿に似ていた
- アニー、ピーターを守るため除霊を決行
結果夫は焼死し供物の一部となりアニーも憑依される
ここからのシーンが一番怖い
- アニー自ら首ちょんぱ
ここまででペイモン復活の供物が全て揃う
- ピーター二階から飛び降り気絶
ここでペイモンの魂に憑依される
- ペイモン、復活
何故か全裸な邪教団体が行う最終的な儀式により遂に復活
そもそもペイモンて何?
ヨーロッパの伝承あるいは悪魔学に登場する悪魔の1体。悪魔や精霊に関して記述した文献や、魔術に関して記したグリモワールと呼ばれる書物などにその名が見られる。
現れる際には、王冠を被り女性の顔をした男性の姿を取り、ひとこぶ駱駝に駕しているとされる。
今作ラストシーンで復活することになるペイモンですが、実際に伝承に残る悪魔の一体であり召喚の仕方も伝承を踏襲しているようでした。
では何故邪教の団体はペイモンを召還したのでしょうか?
答えも伝承の中にあります、
ペイモンは人に人文学、科学、秘密などあらゆる知識を与えるといわれ、大地がどうなっているか、水の中に何が隠されているか、風がどこにいるのかすら知っているというのです。
また召喚者に地位を与え、人々を召喚者の意思に従わせる力も持ち、良い使い魔を用意してくれるともいいます。
召喚者にとってはメリットしかない悪魔だったんですね。
おすすめポイント
長編処女作となった今作ではありますが、完成度が高く批評家からの評判も非常に高いです。
何よりも徐々に日常を蝕んでいく狂気の描き方が丁寧で、冗長すぎるという意見もありますが没入できる点が恐怖を盛り立てます。
ラストシーン近辺のトニ・コレットの演技はまさに迫真、ピーターの背後で壁を高速移動するアニーは近年の海外ホラーの中でも五本の指に入る不気味さであると言えるでしょう。
以前何かの記事の時にも書きましたが、オタクというのは考察が大好きな生き物。そしてそれはシネフィルにも同じことが言えます。
謎の光や儀式の様式・言語など説明不足の点がかえって考察の余地を広げ、批評家たちの考察好きのツボをグリグリと押したのです。
ミッドサマーと比べて
2020年に公開された長編第二作目の『ミッドサマー』も、アプローチは違えど狂気の集団に魅入られてしまった人物を描いている点ではかなり共通点があると言えるでしょう。
また、演出手法を見てみても共通点が見つかります。
ヘレディタリーでもミッドサマーでも、日常から非日常へと展開していくシーン(ジョーンの部屋を二度目に訪ねるシーン・ホルガへと向かう車を映すシーン)では映像が上下反転する手法がとられています。
色彩に関しては二作目ミッドサマーが北欧独特のオシャレカラ―を多用し、明るい配色と狂気という本来ならば対極に位置するものを並べることでオリジナリティを出しているのに対し、今作は暗い室内・昼から夜への一瞬の反転など、ホラーのオーソドックスな配色に終始しています。
オーソドックスになっているということはド定番ということ、今作もミッドサマーもどっちもばっちりキモくて不気味な仕上がりとなっています。
総評
日常から狂気に陥るまでの描き方が見る者に没入感を与え、みなまで説明しない不親切さがかえって考察の幅を広げるという監督の思惑がビタッとハマったような映画です。
洋画ホラー映画界期待の新人はなんとまだ若干33歳。コンスタントに作品を世に出してはスマッシュヒットを飛ばし既に大器の片鱗を見せています。
これからも彼の作品から目が離せません。
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