アカルイミライ クラゲが意味するものとは

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MOVIE
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常に先進的で難解な作品が多い黒沢清監督作品

今回も含みの多い一本となっていますよ!

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あらすじ

生きる目的もない主人公・雄二(オダギリジョー)が唯一心を許せる存在の守(浅野忠信)。ある日、守が飼っていたクラゲを託された雄二は、新たな何かを見出していく…。

ハッピーエンド

黒沢作品というと『CURE』や『回路』などのホラー作品や、『カリスマ』のような含みのある暗い作品が多い印象があります。

しかし今作は暗い雰囲気を感じさせはしますが、その暗さは陰鬱というより日曜日の夕方のような”気怠い日常”に近づいた、どちらかというと明るい作風となっています。

主人公である仁村が不器用ながらも様々な人物や重要なキーアイテムである”クラゲ”を通して成長していく、あらすじだけ見ればよくある青春ムービーなのですが

そこは黒沢清!

一筋縄では理解させないぞ!という気概が伝わってくる作品となっています。

早速考察していきましょう。

考察

クラゲとは

今作で非常に印象的な登場する動物”クラゲ”

ふわふわと泳ぐの赤クラゲは羊水に浮かぶ赤ん坊のメタファーだったのではないでしょうか。

水槽越しでしか観察できず、ぱっと見自我の有無も分からない。しかし愛着が沸くと本当にそのことしか考えられなくなる。作中に登場する人物の殆どが赤クラゲの虜になっていたのは人類がみな持つ庇護欲が満たされるから。

徐々に真水に慣らされ水槽から解き放たれた(=出産)クラゲは繁殖し自由に行動を開始します。川で遊ぶ子供を刺して社会問題化するのも、東京という生まれ故郷を後にするのも、自分の意志を持つまでに成長したことを指すのだと思います。

仁村の「きっと戻ってくる」という発言も、成長した子供を外界に送り出す親の言葉に聞こえてきます。

幸せの青い鳥

また、クラゲには”幸せの青い鳥の影も感じます。

登場人物がクラゲに夢中になったのは

守が大切にしていた形見であることを割り引いても、近くに居るだけで漠然と幸福を感じることが出来ていたのではないでしょうか。

終盤、守の父親は東京を逃げ出していくクラゲを追って海に飛び込み、一匹のクラゲを拾い上げますが毒により卒倒。クラゲは逃げ出していくことになります。

同様に幸せの青い鳥も、最後はチルチルとミチルの手から飛び去っていきます、何気ない日常こそが一番の幸せだと諭すように。

養子縁組をして親子になったのかは最終的に定かではありませんが、

守の父と仁村を結びつけたのもクラゲでした。クラゲを追い求めることから始まった繋がりで二人は以前より幸せに暮らすことが出来たのではないでしょうか。

廃品回収

守の父親が営んでいたのは廃品回収業でした、ここにもストーリーの根幹をなす意味が隠れているような気がします。

仁村は正社員になるかならないかも判断できない全く自分の無い人間でした、指導者や監督者的な立場であった守が死んでからは生活さえ荒んでいきます。

自暴自棄、という四字熟語があるように仁村は社会性を、自分を棄てていたのです。


守の父も生活力の無さから妻と別れ、息子に気を使い、果ては疎まれる。

言いようによっては家族に棄てられた父でした。

廃品回収業はもともと営んでいたものでしたが、きっと使いつぶされ捨てられてしまったモノにシンパシーを抱いたからこそ、日銭も稼げない業種を続けることが出来たのではないかと思います。

そして守の父は自暴自棄になった仁村を回収するのです。

”棄てられた二人が出会い、再生していく”

これがこの映画のテーマだったのではないかと思います。

再生

再生に関してはもう一つ小話を。

クラゲの中にはベニクラゲという種がいるのですが、彼らには寿命がありません。

ベニクラゲは生殖のできる成熟個体からポリプと呼ばれる状態に”若返る”ことが出来るのです。

今作に登場するクラゲはこのベニクラゲではなくアカクラゲなのですが、黒沢監督はこの種族に再生の力を感じたのかもしれません。

若者たち

作中登場する高校生くらいの少年の集団がいます。

その中には後に憑依型俳優となる松山ケンイチやタレントのユージが居たりするのですが、あまりにも唐突に出てくる割にラストシーンは彼らの歩くカットで終わるほど重要な役回りでもあります。

また、彼らはピカピカ光る謎のカチューシャ型のデバイスでコミュニケーションを図っているのです!

ファンタジー色の強い作品ではないのに、何故こんな演出がなされているのでしょうか。


ここには監督の若者へ向けられた恐怖と期待感が込められていると思います。

謎のインカムは自分の理解の及ばないピカピカ光るデバイス(=ケータイ)を駆使してコミュニケーションを図る若者たちへの恐怖と底知れなさを描いています。


また、ラストシーンは彼らが全員「チェ・ゲバラ」がデザインされたTシャツを着ていますが、ここからは監督が若者に期待することが透けて見えます。

チェ・ゲバラとは?

アルゼンチン生まれの政治家、革命家で、キューバのゲリラ指導者。

アメリカの影響が強かった当時のバティスタ政権を打倒しキューバ革命を成し遂げたカリスマ。

ヨーロッパ中心主義の傲慢な歴史観や世界観に対してあらゆる分野での反撃をすることで、自ら新しい体制を作り出したチェ・ゲバラ。

その革新的な行動を今の若者に重ねて考えた。

あれだけ仁村と守の父に時間を割いておきながら、ラストシーンの長回しが彼らのカットであることを考えても

長いものに巻かれずに己を突き通し、自分たちにとってのアカルイミライを築いてほしい。そんなメッセージが聞こえてくるようです。

総評

毎回一筋縄ではいかない表現で観客を楽しませてくれる黒沢映画、今作もご多聞に漏れず難解な作品となっています。

含みがあるクラゲや守のハンドサイン、視聴後も内容全てがわかったわけではないにせよ、なんとなく前向きになれるような魅力的な要素と考察する楽しさがあるエンターテイメント作品だと思います。

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