テレビシリーズとは直接関係のない分かりやすいストーリー、金銀世代のポケモンを中心に据えて、子供のみならず親世代にもターゲットを広げた作品
ポケモンについて考察しつつ、今作の人気の秘密を探っていこう
作品名(評価):劇場版ポケットモンスター みんなの物語(A-)
制作(公開年):日本(2018)
監督:矢嶋哲生
主演:松本梨香、大谷育江、芦田愛菜、川栄李奈他
あらすじ
人とポケモンが風とともに暮らす街「フウラシティ」では、1年に1度開催される「風祭り」のために、世界各地から様々な人やポケモンが集まっている。
伝説のポケモン・ルギアは、人とポケモンの絆を確かめると街に「恵みの風」を送るという約束を、昔から街の人たちと交わしていた。
それぞれの想いを持って風祭りに参加している、ラルゴ、リサ、トリト、カガチ、ヒスイ。そして、ポケモンマスターを目指す旅の途中でフウラシティを訪れた、サトシと相棒のピカチュウ。
人とポケモンの絆を軸にして、みんなの物語が大きく動き出す。
不変
今から20年以上前の1997年4月1日、アニメ・ポケットモンスターが放送開始された。主人公サトシが相棒ピカチュウを引き連れ、各地のジムリーダーを倒しポケモンマスターを目指す、という内容で未だに冒険を続けている。
ここからも分かる通りポケモンは不変なのだ、いつ見ても主人公と相棒は変わらず、どこか懐かしさや郷愁を感じさせる。
あの日ゲームボーイやアニメを見ながら胸をときめかせていた少年少女達もいつしか大人になって、その子供達がポケモンをプレイする様になっても、その内容は基本的に変わらない。
いつ帰っても灯りがついている実家の様な安心感がそこにはある、ポケモンは不変で普遍なのだ。
神話
ポケットモンスターは非常に神話的な創作物である。
人間は原始の時代から自然の圧倒的な力に晒されてきた。火山の噴火・津波・地震・飢饉…そのどれもが人間にとってどうしようもないほど大きい力であった。
人間ははその大きな力を解釈するため、人間より高次的な生物が存在すると考えた。これがいわゆる原始宗教の始まりであり、神々が登場するきっかけとなった。
火・水・雷・植物を操るポケモン、伝説と言われるポケモン、いずれも太古の昔、人間が自然の力を目の当たりにして創作した神々を彷彿とさせる。
つまりポケットモンスターとはかつて畏怖の対象で畏敬の念を抱いていた神々をデフォルメしたキャラクターなのだ。自然のメタファーともいえよう。
ポケモンと自然
そんなポケットモンスターであるが、今作の大筋も非常に神話的であるといえる。
かつて不毛の地であったフウラシティに恵みの風を送るルギアは、まさしく豊穣の神そのもの。普遍的に広がるストーリーであるからこそ万人に親しまれやすいのだ。
今作では雷を司るゼラオラという伝説のポケモンも登場する。ゼラオラは人間の開発による自然破壊によって人間を憎んでいるという設定のポケモンで、ルギアと対をなす存在として描かれている。
人を信じられずにいたゼラオラだったが、サトシの決死の行動によって人間側と和解し、より大きな困難に立ち向かっていく。
ここから我々は非常に分かりやすい教訓を得ることができる。
“自然を大事にして、みんな仲良くしようね”
もう何回も擦られ過ぎていてツルッツルな教訓であるが、初めて物語に触れる子供達にも理解しやすく情操教育にも良い。
子供に安心して見せられるし、自分も楽しむことができる。だからこそポケットモンスターは不変であり普遍であり盤石なのだろう。
サブテーマ
子供の情操教育によくてわかりやすい、今作が人気の理由はそれだけではない。
嘘しかつけない中年、コミュ障の研究者、ポケモン嫌いな老婦人…などなど様々なバックボーンを持ったキャラクターが、ウソッキーやラッキーなど魅力的なポケモンに後押しされ各々のトラウマを克服していく様子が描かれているのだ。
同じ様な境遇や、どこか親近感を感じ感情移入できるキャラクターが多数登場することで、この作品は“刺さる”人間の間口を広げている。
自然との共生と平和というぶっといテーマとともに細々としたサブテーマが用意され、それぞれにカタルシスがある、コレが今作を人気作へと引き上げている要因なのではないだろうか?
総評
ずーっと変わらないものにはずーっと変わらないだけの理由と、変わらなくてもやって行ける強さというものがある。それを体現しているのがこの作品なのではないだろうか?
たかが子供向けと侮るなかれ、見ているうちに引き込まれるポケモンワールドは20年以上経っても健在だ。
ただ、大人ゆえ見終わった後に残るのは「どうせポケモンとかいねえし…」という虚無感、こればっかりは大人になった自分を呪う。
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